第3話「惑星発見」

「アルテミス1、自動修復装置は稼働しているのか?」

「工作ナノマシンの収容カプセルは無事だったので、現在は全容量を使い全力活動フルアクションで艦の修復を行っています」

「艦橋は?」

「艦橋について報告します。レールキャノンの直撃はありませんでしたが、直近を通過したために艦橋前部が損傷しました。艦長を含めた全員が酸素の流出による窒息もしくは血液の沸騰で戦死されました」

「艦内の乗員に生存者はどのくらい居るんだ?」

「いません」

 アルテミス1の簡潔な言葉に、レンヌは驚愕して言葉を失った。

「……」

「レンヌ准尉。大丈夫ですか?」

 メディカルルームの壁の一面が開き、中からコップを掴んだマニュピレーターが伸びてきた。

「レンヌ准尉。お水です」

「ああ! ありがとうアルテミス1」


 医療ポッドの中で水を飲み干して、一息ついたレンヌは少しだけ心に冷静さを取り戻して聞いた。

「それで、俺にお願いというのは?」

「はい。先ほど報告した通りに生存している乗員はレンヌ准尉だけなので、ストラスブール星軍の規則に定義されている緊急時特別措置法に基づきレンヌ准尉は艦長に任命されます。お受けされますか?」


「受けないとどうなる?」

「ストラスブール王国が定める人工知能製造法により、人工知能は自己判断ができないようにプログラムされています。因ってメインコンピューターのAI『アルテミス1』は一切の活動を停止する事になります。更に、全乗員を失った艦船は漂流船扱いになるために、ストラスブール星軍は所有権を喪失するので艦内活動の全てを停止します」

「それは困る」

『艦内の全ての機能が停止すれば、生存する事が不可能になる』

 とレンヌは判断した。

「まるで脅しだな」

「お願いですよ、レンヌ准尉。でなければ『お受けしますか?』とは聞きません」

「わかった。受けるよ」

「それでは、ストラスブール星軍の軍規に則り、レンヌ准尉を戦艦アルテミスの艦長に任命すると共に階級は准将に昇進となります」

「えっ! 准将? いくら何でも上げすぎじゃないのか?」

「レンヌ准将、これも軍の規則です。戦艦の艦長には艦隊の指揮権があるので、階級は准将以上と定められています」


「では、准将。今後の方針を指示してください」

「わかった。だが、その前に聞きたい事がある」

「何でしょう?」

「現状での俺の生存可能日数だ。どのくらい有るんだ?」

「艦長。先の戦闘により食料倉庫および武器倉庫が破損し備蓄の全てを失いました。また、貯水タンクに亀裂が入り水が艦外に漏れ出しました。艦底だけが無事でしたが、そこを除く各所が大規模な損壊状態であり現在修復中です。なので艦底にある自動調理室の付属冷蔵庫及び冷凍庫にある食材が全てです。一人分であれば節約して半年くらいは持つと推測します。ただ、飲料水が足りません。残っている飲料水は調理室の付属倉庫にある500mlのペットボトル百本とメディカルルームにある飲料水タンクの分だけです」

 レンヌは思った。

『それだと、飲料水の補給が最重要になるな。この場所の酸素は供給装置で製造しているから問題ないが飲料水は補給が必要だ』


 レンヌは気になっている事をアルテミス1に聞いた。

「アルテミス1。艦底だけが無事だと言ったが、そこにある設備と物品は?」

「設備はメディカルルーム、自動調理室および付属倉庫、汚水処理室、自動制御工作室、収納式ソーラーパネル格納庫、補助エンジン用燃料倉庫、揚陸艦格納庫、探査機器収納倉庫、資源倉庫、予備倉庫です。物品は医療用ナノマシン収容カプセル二個、工作用ナノマシン大型収容カプセル五十個、小型揚陸艦一隻、自走型探査車両一台、アストロン(反重力式小型浮遊端末機)五機、武装大型ドローン二機、未武装小型調査ドローン二十機です」

「それじゃあ、飲料水を何とかしないとマズイな。ペットボトルを一日に四本消費するとして25日分か」


「あと一つ、問題が有ります」

「何だ?」

「各部の破損がひどい為に修復する資材が不足している状況なので調達する必要があります。もっとも、艦長の生命維持が最優先ですから資源の回収は後回しでも問題ありません」

「そうすると、水がある星を見つけることが最優先だな」

「そうです。一緒に鉱物資源も採掘できる星が望ましいです。更に、超電磁界推進エンジンを修復するためのレアアース『ガドリニウム』が有れば最適です」

「そんなに都合が良い星を発見できるかな?」

「そこは艦長の運で引き当ててください」

「最新鋭のコンピューターがあるのに運頼みかよ!」

「いかに疑似人格を有している最新鋭のAIとはいえ、流石にスピリチュアル的な運は持ち合わせていません。だけど、ただ一人生き残った艦長には強運があると推測されます」

 言われてみれば『そうかな』と思うレンヌだったが、運が良ければこの船に乗っていないのでは、とも思った。


「アルテミス1、長距離レーダーと探査レーダーの修復を最優先にしろ。レーダー修復後に有望な星を探査だ」

「了解しました」

「ところでアルテミス1。現在位置の把握はできそうか?」

「艦長。緊急ワープは座標指定や到達点の設定ができないので現在位置は不明です。通信設備も破壊されています」

「ならば、二番目は通信設備の修復を行え。それから、アルテミス。トイレは使用可能なのか?」

「汚水処理施設は無事だったのでトイレの使用は可能です。ですが、レストルームが破壊されたために食事は調理室でお願いします」

「了解した」

「それから艦底より上は損壊した場所が多いために艦内の酸素が不足しています。当分は艦底で過ごしてください」

「仕方ないな。ここで大人しくしているよ」


「艦長に進言します」

「アルテミス1、進言を許可する」

 目覚めた翌日に、狭い調理室の一角で休憩していたレンヌはアルテミス1に許可を与えた。

「ソーラーシステム(光変換電力供給装置)の光変換パネルは自動的に光方向に受光面を向けるので、その方向に行けば何れかの恒星(太陽のように自ら光を発する星)に到達出来ます」

 アルテミス1の言葉には説得力が有ったから、レンヌはとりあえずその方向に行くことにした。

「アルテミス1、そのプランを実行せよ」

「了解しました、艦長。それから予備倉庫を艦長用の部屋に改造する許可をください」

「許可する」


 そして、遭難してから一週間が経った頃に長距離レーダーの応急処置ができた。それからすぐにアルテミス1から報告があった。

「艦長。未知の恒星とその惑星九個を発見しました」

 予備倉庫を艦長の執務室に改造した部屋で、椅子に座っていたレンヌは報告を聞いて思わず立ち上がり歓喜した。

「よくやった! アルテミス1」

「艦長に進言です。未知の恒星とその惑星の発見によって、艦長に命名権が発生しました。ストラスブール本星のマザーコンピューターのデータベースを確認しなければ確定しませんが、私のデータには記録が有りません。命名権を行使されますか?」

「確定してからでいいだろう? 今はそんな事に煩わされたくない」

「了解しました」


 現在、戦艦アルテミスは補助エンジンの惰性だけで推進している。補助エンジンはメインエンジンと違って燃料を必要とするから節約のために必要最低限しか使えない。

 宇宙空間は、ほぼ真空状態だから空気抵抗が無い。そのため、物質に運動エネルギーを与えると進行方向に惰性で進む。補助エンジンの使用は発進時と進行方向を決める時だけで済むが、速度はあまり早くない。


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