第6話 兵糧部隊のすゝめ

 宿に戻った僕は明日から始まる仕事に向けて準備を始めた。準備と言っても仕事内容を覚えるだけなので、そこまで難しくないだろう。

 仕事内容が書かれた冊子を開くと驚愕した。冊子は分厚くなかったのでそこまで難しくないだろうと思っていたのだが、文字の密度がありえないほど高かったのだ。


  兵糧部隊のすゝめ

 兵糧部隊とは

・初めに兵糧部隊とは数日に渡って行われる軍事行動に対して本領から麦を始めとした兵糧を前線に居る部隊へと送る部隊である。勘違いしがちだが、兵糧を調理するのが仕事ではなく本領での準備から前線の調理班に送るまでが仕事である。


・部隊構成だが、隊長を上級将校以上将官未満の軍人が務めることになり、副隊長を隊長以下下級将校以上の軍人が務める。一般兵には特に制限は設けられていないが、兵卒の場合は優秀でなければ所属してはいけない。


 ビギン軍法


 第一章 叛乱罪

第一条 友好都市を含めたビギンに従属していない都市、村への内通した者は死刑に処す。


第二条 軍部への報告なしに武器を所持している者は懲役五年未満と治水業務二年に処す。

etc…


 第二章 辱職罪

第十一条 将官以下それぞれは己の職務を全うしない者は財産没収に処す。


第十二条 将官は下の者の模範となり己の判断で動けない者は上級将校へ降格、将官への昇格を永久剥奪に処す。

etc…


 第三章 逃亡罪

第二一条 敵を前にして逃亡した者は鉱山での強制労働に処す。


第二二条 徒党を組んで逃亡した場合は首魁の罪は死刑に処し、他の者らは上の罪で問われる。

etc…


 と永遠に軍法が続いていた。軍人になるなら軍法は絶対になるため、これを全部覚えなければいけなかった。一日で覚えきれるとは思えないが、ある程度重要な奴だけでも覚えておかなければいけないだろう。

 一周だけ読んでみたけど、かなり将官に権力が集中していた。特に上官の命令は遵守するという法律は悪法だと思った。

 まあ野生の力を持つ下の階級の者への命令を確実にするためにこの法律を作ったんだろうが、コネで入った無能が無意味な命令をしてしまった時に軍は総崩れになってしまうはずだ。都市成立時は優秀な者が上に行くような時代だったから別に良かったのだが、今では時代錯誤も甚だしいだろう。


「明日から仕事だから早く寝ておきたいけど、全然眠くないな」


 僕は丸1日気絶していたから夜になっても全く眠くならなかった。

 早く寝るために筋トレでもしようと思った。ただ普通の筋トレをするだけでは勿体ないので、野生の力を使いながら筋トレをするのが良いと巴少将から聞いたので、早速実践してみることにした。

 

 ――結果、数分やっただけでも身体が悲鳴を上げていた。

 ただでさえ身体に負荷を与える野生の力を併用しながら筋トレを行うと身体の筋繊維が壊れるのが、実感出来ていいのだが、変態が解けた瞬間にその場から動けなくなってしまった。


「あー、どうしよう。明日までに治ればいいんだけど」


 どうにかベッドの上に戻れないか格闘しているうちに夜が更けてユーマは諦めて眠りについた。

 ユーマは窓から入ってきた朝日が顔に直撃して目が覚めた。ユーマは身体を起こすことは出来たが、前日の筋肉痛にプラスして床で寝たことによる痛みによって激しい運動は出来そうになかった。


「流石に初日から激しい運動はしないよね。僕の配属は後衛部隊だし……」


 核戦争以前ではフラグと呼ばれていたものを立てたユーマだったが、流石にそこまでの知識は持ち合わせていなかった。


        ◇◇◇◇◇◇


 防衛寮に向かっている最中に色々見ながら向かってしまったため、ギリギリの時間になってしまった。


「初日からギリギリとはいい根性しているな」


「す、すいません!」


「あたしは五分前行動だの面倒くさい事は言わない代わりに遅刻した時の罰は他のところに比べて重くしているから気をつけるようにな」


「了解です!!」


 脅すように言ってきた巴少将にビビって、かなり声を張って返事をしてしまった。防衛寮の廊下で会話をしていたため、建物全体に声が響き渡ってしまっただろう。

 ――ユーマの予想通り、ユーマの返事は建物全域に響き渡り、それを聞いたノビアさんは苦笑いをしていたらしい。


「まあ時間の件はもう終わりだ。仕事場に連れて行ってやるから着いてこい」


 巴少将に連れてこられた場所は、牛やら鶏やらが放牧されている牧場だった。牛たちは古代種を繁殖させたのか、核戦争以前のサイズと変わりなかった。

 もしかして僕がこれから所属する兵糧部隊って動物の飼育がメインの仕事だったりするのか……。


「心配するな。動物たちの飼育は専用の役職があるから兵糧部隊の仕事じゃないからな」


「そ、そうなんですね」


 嫌そうな顔をしてたのだろう。巴少将に心を読まれてしまった。取り繕おうとしてみたが、言葉が出てこなかったので相槌を打つしか出来なかった。


「第4軍団兵糧部隊の仕事場はそっちの建物だ」


 彼女が指を指した先にあったのは、民家よりかは大きめだが、ユーマが過ごしている宿に比べると小さめなサイズをした建物だった。ちなみにその建物の横に併設されている倉庫の方が数倍のサイズがあった。


「第4軍団は事務仕事よりも遠征の方が多いから仕方ないんだ」


「やっぱり第4軍団は不遇なんですね……」


「それは違うぞ。他のやつは知らねえが、あたしは自分の仕事に誇りを持ってやってるし、不遇なんて思っちゃねえ」


「すいません」


 彼女の顔は男である僕が見惚れるほどに真剣でカッコよかった。

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