第5話 少将の実力
入隊を許された僕だったが、実力が分からなければ配属等が決められないらしいので模擬戦をやるらしい。
一応僕も【変態】を持っているため兵卒、将校クラスの軍人では怪我をする可能性もあるため、第4軍団の第1師団を纏める筋骨隆々な女性……山吹巴少将が相手をしてくれるらしい。
彼女の極東の島特有の和風な名前の理由は、彼女の父親がその島生まれで、放浪の旅をしている時に彼女の母とこの街で出会ったと言っていた。
「じゃあどこからでも掛かってこい」
「――っ!!はい」
実践では無いため殺気は纏っていないが、彼女が放つ威圧感だけで僕の足はすくんでしまっていた。それでも僕が動かなければこの模擬戦は動かなそうなので、冷や汗をかきながら【変態】した。
「……兎の力か……どれ程のものか試させてもらおうか!」
彼女は背中から大剣を抜くと防御向きの構えを取って、僕の攻撃に備えていた。傍から見たら隙のあるように見える構えだったが、きっと攻撃を誘うためにわざと隙を見せているのだろう。
しかしその隙以外は全くもって彼女の防御を突破出来ている未来が見えないため、仕方なくその隙を狙って攻撃を仕掛けた。
兎の野生の力によって異常に発達した脚力により、彼女との距離を一気に詰めた。少しは驚いてくれると思っていたが、彼女の顔には焦りがないどころか笑みを浮かべていた。
「兎の力なだけあって脚力は申し分ないな……だが攻撃が一直線過ぎるぞ」
攻撃が止められるのは分かりきっていた事なので別に構わなかったが、相当な速度から放った蹴りを受けたのにも関わらず、彼女はその場から1ミリたりとも動かなかったのだ。
僕は自分と彼女との間にある大きな壁にショックを受けた。今まで野生の力を持っていたティスに虐められていたからか、野生の力を絶対的なものだと思っていた。
でもそれは違った。目の前にいる彼女はきっと野生の力を持っていないヒトだろう。野生の力を持っていないのに少将になった彼女はとてつもない努力をしてきて、野生の力にも勝る力を得たのだろう。
「一旦あたしの攻撃を受け止めてみろ」
そう言った彼女は僕の鳩尾目掛けて蹴りを放った。僕の動体視力で捉えられる速度を遥かに超えた速度による蹴りは僕の身体を地面へと叩き付けた。その衝撃で地面はひび割れ、周りには衝撃波を発生させた。
「おい、死んでねぇよな」
彼女の焦ったような言葉を耳にしたのを最後に僕の意識は暗闇へと消えていった。
◇◇◇◇◇◇
「知らない天井だ」
起きたら見たことの無い天井がみえたのだが、何故かこの言葉が頭の中に浮かび上がって口に出していた。
周りを見渡してみると石造りの建物だったので、多分防衛寮のどこかのだろう。その証拠にむさ苦しい男達の声が遠くから聞こえてくる。
「目が覚めてよかったよ。巴の蹴りを食らってから丸1日眠ってたんだからね」
「丸1日もですか!?」
僕は長くて半日程度だと思っていたので、丸1日も眠っていたことに驚いた。
「そうだ。【変態】しているからある程度の攻撃じゃあ効かないと思って力を込めちまった、済まなかったな」
ノビアさんの後に続いて部屋に入ってきたのは、僕を気絶させた張本人である巴少将だった。彼女は罪悪感があるのか、バツの悪そうな顔をしながら部屋へと入ってきた。
「気にしないで下さい。身体の痛みとかはなさそうなので……」
「そうか……それならもう気にしなくて良さそうだな!」
バツの悪そうな顔から一変して初めて出会った時の顔に戻っていた。彼女は終わったことは気にしないたちなのだろう。
「模擬戦の結果について伝えておこう。(仮称)森の村出身ユーマ、貴殿はあたし……巴少将に実力を示したため、第4軍団第1師団兵糧部隊に伍長として配属を認める……これが伍長のバッチだ」
「ありがとうございます」
所属先が兵糧部隊らしいので実力は認められなかったのかもしれない。だが軍人になることは出来たので、これから先はどうにでもなるだろう。
「ちなみに入隊直後の伍長は基本的に仕事が多いけど安全な雑用部隊に送られるからユーマの力は認められたんだよ……まあ基本的に第4軍団は遠征が多いから兵糧部隊も雑用部隊くらい多忙だけどね」
「うちの兵糧部隊は人が足りないってずっと嘆いてたから坊主が来てくれて丁度良かった」
「……ようは足りない人員を足すために兵糧部隊の配属に決まったってことですか」
「それは違うよ。人が足りないのはどこの部隊も同じ、ただ新人は前線の部隊への配属は基本的に禁止されているから、後方部隊の中から選ばなくちゃいけなかったから……前線に行くこともある兵糧部隊にしたんだよ」
ある程度の実力は認められたのか……でもまあ今のままじゃあ前線部隊に配属されることは無さそうだから兵糧部隊で働きながら【変態】の練度を上げることを目標としようかな。
「明日から仕事をしてもらうけど……泊まるところははどうする?給料が入るまでは私が払ってもいいけど……それとも私の家に泊まる?」
「……宿のご支払いをよろしくお願いします」
ノビアさんは揶揄うように聞いてきた。意趣返しの意味も込めて泊めてもらおうとしようとも思ったが、流石に女性の一人暮らしの家に泊まるのは僕の心臓が持たないので、普通に宿の料金を払ってもらうことにした。
ちなみに後に聞いたことだが、ノビアさんは第4軍団の個室で基本的に過ごして、家は空いているらしいので、僕が泊まっても問題は無かったみたいだ。
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