第3話 城郭都市ビギン

 彼女がビギンと呼んだ街は堅牢な城壁に囲われた城郭都市であり、野生の力を持ってしても破るのが難しいと思われた。

 そして城郭都市の入口には二人の騎士が門兵として常駐しており、外からの侵入に常時警戒していた。門兵たちは女性の姿を見ると直ぐに頭を下げて簡単に入城を許可していた。


「お姉さんはこの都市のお偉いさんなんですか?」


「うーん、良い地位に居るよ。でもまあ父上がこの街の幹部だから……コネのお陰だよ」


「……いい街ですね」


 彼女の顔に陰りが見えたのでわざとらしくなってしまったが話題を無理矢理変えまることにした。

 僕が街を褒めたのが嬉しかったのか、彼女の顔から陰りが引いて行った。

 ただ勘違いしないで欲しいのは、いい街だというのはお世辞でもなんでもなく事実なのだ。核戦争以前からかなり衰退した世界だと言われているこの世界に木造とは言え立派な建物が連なっているのだ。

 都市の中心と思われる場所には石造建築と思われるこの時代ではかなり大きい城が建てられていた。

 あれほどの建物を造ったのは、この街のトップの権威を示すためのものだろう。


「この街はどんなふうに運営されているんですか?僕がいた村は物々交換が主だったけどこの街はそんな風には見えなくて」


「そっか、やっぱり小さな村とかはそうだよね。この街は貨幣制度を入れてるんだよ。この街だけじゃなくて従属してる近辺の村にも導入してるから……もし君の村が残っていたら貨幣制度になってたかもね」


 貨幣制度は核戦争以前には一般的なものだったが、文明が一度滅んだこの世界には革新的なものだった。

 考案者が誰かは知らないみたいだったが、天才的発想の持ち主か核戦争からかろうじて生き残った文献の持ち主なのだろう。


「あと身分を統制してるかな。下からこの街に居る大多数を占める平民、村を代理で治めている平民長、政府の役人である士族、政府の幹部たちや複数の村を配下に置く豪族、そしてこの街のトップである王の五つに分けて上に行けば行くほど給料が良くなるから人は努力を辞めないようになってるんだ。まあ平民が頑張っても殆どが平民長止まりだけどね」


「へぇ〜……ちなみにお姉さんは何処なの?」


「……私は豪族だよ。一応軍部の幹部だからね」


 一応軍部に着いても説明してもらった。軍部は伍長から始まり、三等軍曹、二等軍曹、一等軍曹の兵卒、少尉、中尉、大尉の下級将校、少佐、中佐、大佐の上級将校、准将、少将、中将、大将、元帥の将官に分かれている。

 一般の平民が真面目に努力すれば10年で平民長の身分である大尉までは辿り着ける。しかし上級将校以上は役人の身分である士族になるためその壁はとても高い。

 だが稀に平民でも上級将校になる者もいるが、その者らは皆生まれながらの才能である【変態】が強力だから武功を上げることが出来て士族になれるため、やはり一般的な平民は平民長止まりだ。

 政府の幹部となる将官たちは士族か豪族の生まれの者しかいない。お姉さんもその一人だ。お姉さんは上から三番目である中将の職を持っている。

 彼女は街の外にある村を調略または侵攻して従属させる第4軍団の指揮官らしい。100人で構成される師団が二つの計200人の部下が居るみたいだ。


「凄いですね……僕はそこに入団すればいいんですか?」


「なんでそう思ったの?私はただ君の安全を守るために連れてきただけだから別に君の人生なんだから自分で決めなよ」


 僕には疑問が残った。武力で人を従わせる部隊の指揮官である彼女が僕みたいな才能がある訳でもない一般人を助けたりするのだろうか?

 少し考えたら大体のことが分かってきた。無理矢理軍人にするのは外聞が悪いため、自分から軍人になる選択を取らせるのだろう。

 よくよく考えれば僕みたいな外から来た特に才能もない僕が出来る仕事も無いだろうし、ここまで読んでいたんだろう。


「軍人になりますよ。僕に出来そうな仕事は無さそうですし」


「あらそう?君がそう言うなら別に構わないけれど……軍は大変よ。最初のうちは特に雑用が多いからね」


「別に構わないですよ。村の時も殆ど雑用しかやってなかったので」


 僕がそう言った途端彼女は悲しげな顔をした。僕が雑用を出来ないのをイビリたかったのに出来なくなって、悲しくなったのだろうな。

 まあ死にさえしなければ何にも感じないけど……怪我するのは面倒かもなぁ……治るまで面倒だし。


「……手柄を上げれば早く雑用から脱せられるから頑張ってね」


 豪族である彼女が権力を行使すれば簡単に昇格させられるだろうが、それをしないのは彼女がコネでその地位に居るからなのだろうと考えていた。

 軍部の本拠地である防衛寮に着いたのだが、今は入隊の時期では無いので書類の作成だったりといろいろ時間が掛かるため一度帰された。その際僕は泊まる場所もお金もないのでお姉さんに手配して貰ったのだが、その宿はかなり良さげなものだった。


        ◇◇◇◇◇◇

 

「結構いい所に泊まらせて貰ったけど……麦いくつ分……どのくらいの値段だろうか」


 貨幣制度というものに触れてこなかった僕はどんなものにも麦換算するのが癖となっていた。

 それにしてもお姉さんはどうして僕に良くしてくれるんだろうか。イビリがいのある見た目でもしてるのか……いや彼女の地位はかなりのものだから下っ端になる僕と関わりはないはず……じゃあ囮にでも使うのか?まあどちらにしろ軍部に入るしか生きる道はないから入らざるを得ないんだけどさ……一番の懸念は僕の【変態】がいつでも発動出来るのかかな……。

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