Cinderella Part 1

”Recipe

オレンジジュース 30ml

レモンジュース 30ml

パイナップルジュース 30ml


シェーカーに氷とすべての材料を入れてシェークし、グラスに注ぐ


3種類のフルーツジュースをミックスして華やかでトロピカルな味わい。

ノンアルコールなので、子供でも安心して飲めるCocktailである”


この間までは雪が降っていたのに、気が付けば桜の花弁が舞う時期になっていた。

今日もライブだった。

サックスを持って、男物のスーツを着て、ハットをかぶり、

サングラスを掛けてステージに立っている。でも、最近調子が悪い…

体調も悪いのは事実なのだが、それ以前にサックスの音が出なくなってしまったのだ。そのまま本番に出たが、やっぱり結果は最悪だった…

ライブのMCで冗談交じりに


「なんか今日はサックスに嫌われてるみたい」


そんなことを言ってみたものの、本音はかなりショックだった。


「やっぱり5年以上オーバーホールしてないからなぁ」


そろそろ直さないといけないんだろう。そんな事を思っていた。

でもその前に、スペアを用意しないと無理だ…

今月使えるお金、後どれだけあったっけ?

色々と思考をフル回転させると、月末には何とかなりそうな予感がする。

それまでは節約とかして頑張らないと…

そんな事を想いながら、キャリーケースとサックスを引きずって

何時もの様に新宿の歌舞伎町にある『花園神社』に行っていた。


境内は桜の花が9分咲きと言った所だろうか?

たくさんの人が携帯などで桜の花の写真を撮っている。

そう言えばライブで他の演者がステージで


「東京は桜が満開になったらしい」


そんな事を言っていたのを思い出した。

何時もの様に『芸能浅間神社』へ今日のライブの感謝と次のライブの成功をお詣り。

そして『花園神社』の本殿にもお詣りをして、階段を降りて

白梅の傍の街灯…いつもの場所に背中を預ける。


「今日は疲れたなぁ。今すぐに家に帰れる状態じゃないんだよ…」


そう、あたしはライブが終わると、いつもその日のライブの反省をして「鬱状態」に陥るのだ。

サックスのケースを触りながらぼーっとしていると、不意に足を引っ張られる。


「……な、何?」

「お兄ちゃん、どうしたん?」


足を引っ張ったのは、小さな女の子。

「お兄ちゃん」と言われて驚いたが、今のあたし自身の姿を見て思い出す。

ライブが終わってから着替える暇もなく、スーツ姿で帰ってきたのだ。

何時もなら新宿の駅ビルで着替えるのだが、

今日はそれをする事を忘れる程に落ち込んでいたのだろう…


「お兄ちゃん…『家出』しはったの?」


少女の言葉に慌てる。


「違うよ。『家出』してないから。それにあたし…お姉ちゃんだよ?」

「お姉ちゃんだったんだ…堪忍な。でも、何か寂しそうやね?」

「そう?ちょっとね…今日は色々あって、落ち込んでたの。

でも、ここに来ると元気をもらえるから、帰りに寄ったんだよ」

「そうなんだ…」

「ところで、貴女はこんな時間にどうしたの?

お父さんかお母さん、一緒じゃないよね?もしかして、迷子?」


夜の7時過ぎに小さい子供が1人で神社にいる。どう考えてもおかしい光景だ。

近くに両親らしい人はいないようだし…

社務所の人に預けた方が良いのかな?

そんなことを考えていると、目の前の少女の瞳から涙が零れている。


「ちょっと、どうしたの?何で泣いてるの?お姉さん、何か悪い事言っちゃったかなぁ…」

「違うんよ。どうしたらいいか分からない…ここには誰もおらんから」


誰もいない?この神社にはたくさんの人が、桜の花を写真に撮っているはず。

そう思って顔をあげると、さっきまでたくさんいた人が1人もいない。

しかも、桃色だった桜の花の色が少しずつ白くなっていく…

まさか「Monochromeの迷宮」が近くにある?このままじゃまずい。

気が付いたら少女の手を握って、キャリーを持っていた。


「お姉ちゃんが助けてあげる。だからこのまま歩いて」


そう言ったが、この場を離れようとはしない…


「どうしたの?このままじゃ大変な事になるよ?

お父さんやお母さんに逢えなくなるよ?ね、一緒に行こう」


そう言っても、その場で泣いている少女…

そうしている間に、いつの間にか桜の花は真っ白になり、

近くにあった鳥居の紅い色もだんだんと黒くなっていく…

あたしは『あの鍵』を取り出して握りしめて叫んでいた。


「来人、来夢、助けて!」


何時もの眩暈が始まった。でも、少女の手を離さない。

離してしまったら、彼女は「Monochromeの迷宮」に引き込まれる…

それだけはダメだ。そう思って目を閉じて、鍵を握る手に力を籠める。


『綾香!大丈夫か?』


目を開けると、目の前に「Pousse-Cafe」が現れていた。

来夢が駆け寄ってきている。


「来夢、良かった…来てくれたんだね」

そう言うと、あたしは意識を失った…


『…ね、りんね…しっかりして!』


遠くで声が聴こえる。誰だろう?


『綾香、戻ってこい!』


別の声がする…でも思い出せない。


「凛音、こっちだよ!」

「綾香、『闇』に喰われるな!」


『凛音』と『綾香』…声の方へ歩いて行こうとすると、

ものすごい勢いでスーツの裾を引っ張られた。


「お姉ちゃん…そっち違う。こっちや」


桜色のワンピースを着た少女が、微笑みながら反対の方を指さす。


「え?だって、あたしを呼ぶ声は向こうから聞こえるよ?」

「それ、違うん…こっちやから。行こう」


そう言って少女に引っ張られると、明るい場所に出た。

そこには満開の桜…しかも綺麗な桜色だ。


「これって、桜だよね?」

「そう。この時期にしか見れない桜…『お兄ちゃん達』もおるから。

もう目を開けて、お願いや」


『お兄ちゃん達』って誰の事だろう?そう思いながら目を開けると……


『凛音…よかった。心配したよ?急に倒れたって聞いてさ…』

『全く、世話かけさせやがって…まあ、綾香が「闇」に喰われないでよかったよ』


来人と来夢の声がする。

そしてその横には、桜色のワンピースを着た少女が心配そうに見つめている。


「……あたし、どうしたんだろう?花園神社にいたのに。

その子を見つけて、桜が白くなって、鳥居が黒くなって…

でも、その子が動かないから…そうだ、それで鍵使って…」

『まあ、そうなるわな。この子は『あの場所から動けない』子だ』

「どう言う事?訳がわからない…ここ、本当に『Pousse-Cafe』だよね?」

『凛音、落ち着こう。って言うか、その恰好、どうしたの?いつもと違うよ』

『今日はライブだったんだろ?だからその恰好か…男に間違えられても仕方ないな』


まだ何も言ってないのに、来夢にはすべてお見通しだ。

来人はその言葉に、首を傾げる。そして少女は、来夢に頭を撫でられてニコニコしている。


『とりあえず、起きて。今、ハーブティー入れるから』

「あ、あのさ…あたしどの位、意識なかった?」

『5分位かな?まあ、てんかんの発作じゃない事は保証してやる。

後、メニエール病の発作でもなさそうだな。食欲は相変わらずないみたいだが…』


そう言われて、安心した。

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