Angel's Kiss Part 3

『やれば出来んじゃねぇか…綾香。お前の「闇」は俺が消してやる。

でも、一時的なものだ。お前自身が立ち向かう気力がなけりゃ無理だ。出来るか?』

「あたしは...あたしはまたここに来たい。みんなと一緒にいたい。

『風の色を聴いて、風の音を見る』までここにいたい!」

『その言葉…確かに「選ばれた人」みたいだな、綾香。

だったら目の前の壁をぶち壊せ!重たいだけの鎧に縛られんな!

来人「あれ」を用意してくれ!俺は「あれ」を用意する、いいな』

『来夢、それってまさか…』

『綾香、待ってろ。今、お前を「Monochromeの迷宮」から出してやる。

俺等が用意するまで、1人で出来るな?』

「やってみる」

『よし、ちょっと無茶する事になるかもしれねぇが、打ち勝てよ。

来人、時間がない。すぐに支度しろ!』


そう言うと来夢と来人はカウンターの中に入っていく。

来人はカウンターのグラスを取りだして、氷とオレンジジュースを入れている。

来夢は食材を切って、フライパンで炒めていく…どうやら来夢は食事を作っているようだ。

あたしは胸の鍵を握りしめて、何かから逃げるように必死だった。


どのぐらいの時間が経っただろうか…ふいに来夢の声がした。


『綾香、待たせたな。出来たぞ』


そう言ってあたしの目の前に持ってきたのはオムライスだった。

ケチャップがかけられたオムライス…

来人が持った来たのはオレンジジュース。ストローが付いている。

どこかで見覚えがある。何処だろう…


『冷めない内に食べなよ、凛音』


来人の言葉に頷いてスプーンを持つ。

声にならない「いただきます」を言ってオムライスをすくい、口に運ぶ。

この味、覚えてる…何処で食べたんだろう?

2口目を口に入れた瞬間、見えたのは母親の笑顔だった。


「これ…ママの味だ」


思い出した。あたしが泣いて帰ると、母親はいつも夜ご飯にオムライスを作ってくれた。必ず一緒にオレンジジュースを添えて…

両親が事故で亡くなってから、あたしはオムライスが嫌いになった。

どのオムライスを食べても、母親の味にはならなかったからだ。

でも、ここにあるオムライスは間違いなく母親が作ってくれたオムライスだった。


「ママのオムライス。何時もオレンジジュースが一緒だった。

パパとママと一緒に食べた…」


食べていると、まだ両親がいた時の食事風景が浮かぶ。

でも、中学に入ってからはそれが煩わしかった。

何時までも小さい子供扱いされている気がして、食事を食べないことが増えた。


「ママ、パパ…逢いたいよ。何であたしを置いて逝っちゃったの?」


食べ終わる頃には涙が止まらなかった。

来夢は、そんなあたしを見て頷く。

来人は、あたしを心配そうに見ている。


『綾香、お前さ両親がいなくなってから周りの顔色を伺って生きてきただろ?

本当に心を許せる相手、いないんだろ?お前の叔父貴だって、親族だが何時も傍にはいない。

何かあると何時も行く神社が唯一の場所なんだろ?』

「あの神社は、新宿の喧騒にあるから。1人でいても寂しくない気がする。

でも、人混みから逃げたい時は何時も行ってる」

『だから僕と凜音が初めて逢ったのは歌舞伎町なの?来夢…』

『ま、そんなところだろうな。ただ、あの時はここまで「闇」は深くなかった。

「Monochromeの迷宮」に間違って入っただけ。

しかしな、1度迷宮に入った奴は迷宮に入りやすくなってしまう。

特に「闇」を多く抱えている綾香は何時迷宮に入ってもおかしくない。

迷宮に呼ばれちまってるからな…』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る