Blue Moon Part 2

「あの…来人さん、どうしてこのお店は『Pousse-Cafe』という名前なのですか?

確かCocktailにもありますよね?バーテンダー泣かせのCocktailだとか…」

『おや、凛音さんはCocktailにお詳しいのですね。確かに『Pousse-Cafe』は作るのが大変です。アルコールの比重を考え、なおかつ静かに作らないといけませんからね。

でも『Pousse-Cafe』を知っているのならば、あの虹の様な色彩も解りますよね?

ここは初めに言ったように「その人が失った色彩を見つける」場所。

なので、虹の様なCocktail、『Pousse-Cafe』から名前をいただきました。』

「そうなんですね…だから看板にも『Pousse-Cafe』のCocktailが書かれていたんですね」

『看板の色が見えたのですか?やはり凛音さん、貴女は「招かれる客」…

いえ「私の友人」ですね。もうこのお店の鍵を持っているのですから』


急に「友人」と言われても…ちょっと困る。だって初対面の人だよ?

こう言う時どういう顔をしたらいいんだろう?

困っているとバーテンダー…「来人」はあたしを見て言う。


『そんな困った顔をしないで下さい。ここに自由に来れる方に出逢えたのは

久方ぶりなのですから…私はとても嬉しいのですよ、凛音さん』

「あ、あの…『凛音』でいいです。だって、私と来人さんは「友人」なのでしょ?」

『確かに。これは失礼致しました、凛音。では私の事も「来人」と呼んで下さいませ』

「あ…はい。後、友達なら敬語はやめませんか?」

『それもそうですね、凛音。ではここからは堅苦しい話し方はやめましょう。

ところで、終電には間に合うのですか?凛音の家は新宿からは少し遠いみたいですが…』


その言葉にはっとする。終電、まだあったかな?

心配になってスマホを見ると、圏外になっている。圏外って、どうしよう…

あたしは慌てて来人に聞く。


「来人、スマホ繋がらないんだけど…」

『そうでした。このBARは「異空間」と呼ばれる場所。

ここでの時間は凛音が普段過ごしている場所と違うのですよ。

だから、ここを出たらまだ凛音が入ってきた時間になります。

確か…22時を回っていたと思いますから、終電は大丈夫そうですね。

でもLadyを遅くまで引き留める訳にはいきません』

「Ladyって…そんな事言われたらびっくりするよ。

でも今日は楽しかった。美味しいCocktailにも出逢えたし。来人にも逢えた。本当にありがとう」

『いえいえ、こちらも久しぶりに愉しい時間を過ごせました。ありがとうございます』


頭を下げる来人に戸惑いながらあたしは財布を取り出す。


「来人、Cocktailの料金はいくらになりますか?」

『料金?それは結構です。貴女の色を見せていただきましたから。』

「え?それって「見つかった色彩」が料金って事?」

『そう言う事になりますね。特に凛音の「色彩」は特殊でした。

逆にこちらがお金を払いたい程です。だから、凛音にはこのお店の鍵を渡しました。

「選ばれた人」の証としての対価に等しいのです。鍵に名前も彫ってあるでしょ?それは「私の友人」の証です』


この鍵、簡単には持てないのか。改めて驚く。

ますます無くせない。普段から身に着けておかないと…


『私から友人に送った御護りだと思って下さい、凛音…

私にはここではバーテンダーとしてCocktailを提供できますが、

ここを離れたら何も出来ないのです。なので、御護り代わりに持っていて下さい。

そして凛音がまた何かに困ったり、私に逢いたくなった時は、その鍵を握りしめて、逢いに来てください』

「わかりました。大切にします。ありがとう、来人…」

『礼には及びませんよ、凛音。

今日はもう遅いです。また何時でもいらしてください。私は待ってますよ』

「本当にありがとう、来人。また来ます!」

『はい、何時でもお待ちしてますよ、凛音…ご来店、ありがとうごさいました』


リュックを背負い、サックスを持って店を出ると、外は歌舞伎町のゴールデン街だった。振り返っても『Pousse-Cafe』は見当たらない。


「また逢えるよね、来人…」


そう言ってあたしは銀の鍵をやさしく撫でた。

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