Angel's Kiss Part 1

”Recipe

カカオリキュール 3/4glass

生クリーム 1/4glass

マラスキーノチェリー 1個


冷えたグラスにカカオリキュールを入れ、生クリームをフロートする。

ピンに刺したチェリーを飾る。

天使の口付けをイメージしたデザートCocktail”


スマホからアラーム代わりの音楽が流れる。今好きなArtistの音楽…

一度止めるが、スヌーズでまた同じ音が繰り返される。


「まだ寝てたいのに…何時?」


そう思ってスマホを見ると、病院の予約時間の1時間前だった。


「やっば!カウンセリングに遅刻する」


慌てて身支度をして、車の鍵を持って家を飛び出る。

車のイグニッションをひねると、エンジンが唸りだす。

それと同時に、今活動しているバンドの曲が流れる。

ハンドル握る手には黒いドライビンググローブを嵌めて、ギアをドライブに入れるとアクセルを踏んで目的地へ向かった。


病院には週に1回通っている。もう10年以上のDoctorとの付き合い。

受付の人にも顔を覚えられている。

それもそのはず、あたしの診察券のカルテ番号は1桁なのだ。

保険証と診察券を出すと受付の人に言われた。


「今日は電車で来たの?なんか走って来たみたいだけど」

「違うよ。車で来た。でも、カウンセリングの1時間前に起きてさ、

道路も渋滞してて、間に合わないかと思ったの…」

「そう言う事ね。ま、大丈夫よ。今日は前に他の患者さんいるから。

ちょっと待つと思うよ?あ、落ち着いたらでいいから血圧、はかってね」


毎週、病院につくと血圧をはかる様にしている。

さすがに息が切れてると、血圧と一緒にはかる脈拍が100以上を超えて

正確な数値が出ない。椅子に座って5分程してから血圧をはかる。


「とりあえず普通かな」

「どれどれ...そうだね。健康じゃないの」

「でもここに来てるのは、別の意味で『病んでる』けどね…」

「昔に比べたら落ち着いたんじゃない?

だって学校早退してきたことあったでしょ?」

「そんな事もあったね…」


こんな話を出来るのも、10年以上の通院があるからだ。


「じゃあ、呼ばれるまで待っててね」

「わかった。本でも読んでるよ」


そう言うと待合室の椅子に座り、持ってきた小説を読み始める。


「福嶋さん、どうぞ」


名前を呼ばれたが、あたしは本に夢中になっていた。受付の人は、もう一度名前を呼ぶ。

「福嶋さん…綾香ちゃん?時間だよ」

「あ、はい」

「相当本に夢中だったんだ」

「読み始めたら惹き込まれちゃって…今行きます」


本当は違う。本の内容なんて頭に入っていない。

いつも「凛音」で呼ばれ慣れているから、本名を呼ばれても気が付かなかった…

慌てて小説をしまって、診察室に入る。


「こんにちは」

「こんにちは。呼ばれたの気が付かなかった…」

「たまにあるよね、そういう事」


Doctorは笑いながら答えてくれた。

あたし以外にも待合室で待ってる間に寝ちゃう人もいるらしい…


「さて、1週間どうだった?」

「うん。忙しかったかな。あ、オーディション落ちちゃった…」

「まだ音楽やってるんだね。ストレスの発散にはなるからいいと思うよ?」

「でも、何だろう…このままでいいのかなぁって思っててね。

バイトとかも出来ないから、年金とか、親の遺産とかでやりくりしてるけど、

お金の感覚だけは今だに小学生みたいだからね。お小遣い帳とか家計簿とか

つけないとだめだし…」

「お小遣い帳はもう卒業じゃないのかな?スマホのアプリでレシートとか読みこんで

出来るのもあるし、そう言うのも活用してみたらどうだい?」

「そうだなぁ…考えてみる」


色々な事を話すけど、「来人」との事は話せなかった。

なんか「秘密」にしておきたかったし、いくら精神科医が「守秘義務」を持っていても、「来人」の事は、話したくなかった…


「薬は、まだある?」

「頓服の薬が少ないかな…最近フルスペックで飲んでるから」

「まだ引きずってるんだ。「心の痛み止め」とは言ったけど、結構あの薬強いからね。それに、血液検査もしないとだめだと思うんだ...今日朝ご飯食べた?」

「朝起きたのが予約の時間の1時間前だったから食べてない」

「じゃあ、今日検査しよう。肝臓数値も気になるしね。

薬は出しておくけど、OD(オーバードーズ)はしないでね」

「うん、わかった。ありがとうございました」

「帰り、気をつけてね。あまり無理しちゃだめだよ?」


そう言うと、診察室を出て待合室に戻る。

カルテを見た受付の人が


「採血入ってるのね。じゃあ、こっちね」


そう言って処置室へ案内された。

採血は慣れている。昔は献血によく行ってたから、左腕には針痕が残っていた。


「それにしてもほんと、よく献血行ったんだね。痕がはっきりしてるじゃない」

「まあ、高校生になってすぐにやりたかったことの1つは献血だったからね。

文化祭で献血車来た時は年齢足りなくてできなかったからさぁ」

「好き好んでやる人っていないよ?」


そう言いながら採血をするのは、受付の人。看護師の資格を持っているらしい。


「でもリストカットするよりはマシでしょ?今だってもう5年はしてないし…」

「そうだね。もしかしてそのブレスレットって、そのため?」

「これ?そう。手錠型のブレスレット見つけて一目ぼれして、2つ買った。

今度色違いが来るよ」

「そうなの?昔は水晶だっけ?たくさんつけてたよね」

「そうそう、どこかの民族かって位つけてたね」


これも長年通院しているから話せる事。

採血が終わって、受付の人があたしを見て言う。


「そう言えば..そのネックレスも買ったの?」

「あ、これ。これは友達にもらったの。Antiqueの鍵の形って珍しいよね」

「Silverなんだ。本当に綾香ちゃんは昔からAccessory好きだものね」

「うん。着けられなくなっちゃった指輪は携帯に着けてるよ」

「指輪を携帯につけるの?本当だ...そう言うの自分で作るの?」

「うん。パーツとか買ってきて作るよ。ライブの時のAccessoryも作ってるし…」

「器用だね、綾香ちゃんは」


笑いながら話をすると、処方箋が出来たという。


「また来週ね。予約入ってるよね?同じ時間で」

「入ってるよ。綾香ちゃんは1ヶ月先まで入れてあるから」

「ありがとうございました。じゃあ、血液検査の結果待ってるね」

「喜んで待つものでもないのに…気をつけて帰るのよ」

「はあい」


そう言ってあたしは病院を後にした。

薬局で薬をもらい、コンビニでコーヒーを買って車に戻る。

シートベルトをした時に胸のネックレスに手が当たった。

「来人」にもらった『Pousse-Cafe』への鍵…

昼間もやってるのかな?そんな事を思って鍵を握ろうとしたが、

今は車の中…ここでCocktailを飲んだら飲酒運転になる


「今はだめじゃん。後にしようっと」


そう呟くとイグニッションを回して、車を本屋に向けて走らせた。


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