看取リ手
ガラスケースの中で彼女は椅子に座っている。長い
結局の所ボクは、本当の意味では何も生み出せなかった。それでもこの名はソムニウム・ドライブやこの施設の製作者として歴史に
何かを成した人間も、何も成せなかった人間も、この世界に生まれた誰もが必死で生きていた
そしてそんな人の歴史もいつかは終わり、この惑星や宇宙すら終わる。
けれど、それを理解してもなお、此処に
「どうかしましたか?」
「いや……何でもないよ」
いつの間にか戻ってきていたクスィの問いかけに、
「そうでしょうか?此処に居る時のあなたはどこか変です。全ては此処にあるものが関係しているのではないですか?特にあの絵」
その
「……そうだ……そうだね」
「ボクも同じ場所に行きたかったんだ。あれに並ぶ
視線を再び絵に戻しながら答える。何を見ても何をしても、何も感じなくなっていたあの
初めて目にしたのに、良く知っているような気がした少女。あの日と変わらず
「今は、違うのですか?」
目を伏せて視線を
「……意味が無いんだ。この世界には何も無い。全ては逃避で無駄で、例えそれが出来ていたとしても満たされる事は無かった
「それがあなたの本音であるとするのなら、なぜ最近のあなたは以前とは比べ物にならない
「ボクには無理だったんだ。だから……もういいんだ」
「本当にそう思っているのですか?」
「……ああ」
「ならば、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているのです?」
「……どうして、かな、届かないと知っているのに……無意味な逃避だと解っているのに……」
「それでも、求めているからではないですか?どうしようもない
投げかけられた声に胸が詰まった。確かにそうだった。そこには絶対に届かないと分かった
「……そうかもしれない」
「今でも、
「いいえ」
「此処に在るものがあなたにとって特別な意味を持つように、今あなたが
「どうしてそんな事が言える?」
「ずっとあなたを見てきたからです」
「どうか私には全てを話してください。私はその
クスィが僕の手をそっと
「此処にあるのはねクスィ。
「
「ああ、此処のあるものだけじゃない。人が行う事はたぶん全てがそうなんだ。ボクが
ボクを見つめたクスィは
「脳が発達しすぎた
口にした身体から何かが
「この世界が楽園ならそんなものは
本当に求めたものには手が届かなかった。そしてそれ以外のものは全て
「だから目を
「いっその事、自ら終わりにしてしまえたら良かったのに、それすら出来なかった。だとしたらそんな人間はどうしたらよかった。何も持っていなかった人間は、この
「どうしたらよかった。どうしたらよかったんだ……」
「もう一度だけ
◆◆◆
気が付くと目の前に少年が立っていた。細く、だが生命力に満ち
「お前のようには成るものか」と少年は言った。ああ、そうだろうと思う。あの
少年の
少年にとってボクは
そうであるべきだった。そうであってほしかった。
いつかの自分が地を蹴って、その
ぼんやりと
「おはようございます」
その日だけで、何度目になるか分からない
此処が現実だった。例え何度やり直せても
「……駄目だ。駄目だな」
それは今まで
「たった一つ……。たった一つでよかったのにな……」
せっかく
「結局ボクは何者にも成れなかった。かつて夢みた
涙は
倒すべき敵も、守るべきものも、果たすべき使命もこの世界にはありはしない。だから意味のある行動も、価値のある何者かなんてものも存在し無い。
けれど、それはどこまでも
「知っています。あなたの理想に、あなたの手が届かなかった事も、例え届いたとしてもあなたが満たされなかっただろう事も、そして人の一生とはそんなものだとあなたが思っている事も、けれど少なくとも、あなたは最後まで
そう言ってクスィは、ボクの頭を優しく撫でた。
「あなたは良く、頑張りましたよ」
その
「君のおかげだ。君が
ぼやけた視界の中、感謝と
「あなたは私に、人形という存在に何を望みますか?」
ようやく涙が
「……人の形をして、人に
名付ける時にそう願った。あの時は個人的な思いに過ぎなかったけれど、もしも人よりも優れた神の似姿が全ての人に対してそうしてくれたなら。その先では誰もが
「ならば、そういうものでありましょう」
返された静かな声に
けれど、身体を
「貴方が深い眠りに落ちてしまっても私は貴方が目を覚ます時を待ち続けます。そして目を覚ましたら貴方を散歩に連れ出して、また二人でたわいの無い
言い聞かせるようにクスィの
残された力でクスィが
たし、か……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます