第34話 人殺し①
「……ぁ」
「ここが今向かっている場所。私達がこれから暮らす街」
「出入りが
「……シェルター?」
知らない言葉だったから
「シェルターっていうのはね。安全な場所の事。それから私達のような場合には補助金が出るのも大きかったかな。ああ、でも仕事はもう決まってるし、普通に暮らしていく分には十分だから、そもそもそうじゃなかったら保護者の
「当分の間は私と暮らす事になるし、
その言葉にどんな反応をしたらいいのかわからなくて
「あ、あの」
「何?」
「その、……これ。
そう口にしながら昨日
「これ、相談窓口の……」
「君が持っていなければいけないって言われなかった?」
「でも……」
「これは、君が持っていなきゃいけない大切なものなの」
予想した痛みは無く、
「
「それが新しい、ルールですか?」
そう聞くと
「ごめんなさい」
「違うの。もうルールは無いの」
「すぐには難しいかもしれないけど、これから君は自分でどうするかを決めていいし、決めていかなくちゃいけない。もし、どうしたらいいか分からない事があったら、その時は私も一緒に考えるから。だから思った事や気になった事があったら、なんでも言ってね」
「それじゃあ、
差し出された手を
ずっと病院にいる事は出来ないと知っていて、本当は
子供を作る
◆◆◆
目を開けると無機質な天井が見えた。それはいつかの病室と似ていて、一瞬夢がさらに巻き戻ったのかと思った。でもすぐに違うと気付き、全てを
口の中に残っている気持ち悪さ、それに耐えながら視線を動かすと近くに置かれた椅子に見知らぬ女が座っていて、手にした本を読んでいた。
「ああ、良かった。気が付きましたね」
僕が目を開けた事に気付いた女が、本を閉じて机の上に置いた。
「どうぞ、そのままで
「気分はどうですか?」
続けられた言葉に口を
「
誤解を解こうとするみたいに言いながら、女は背後にあったキャスター付きの台を引き寄せた。その上にはいくつかの缶やペットボトル飲料に加え
「お好きな物をどうぞ」
その光景が
「クスィをどうした」
はっきりとした
「
僕が食い下がる前に女は話を進めた。
「まず言っておくと
僕が聞いていないような態度をとっても女は話し続けた。
「大変
「……必要、ありません」
「
女が
「ありがとうございます。もしも、何かあった時はこちらに連絡してください」
何の気持ちもこもっていないような声と共に差し出された名刺を仕方なく受け取る。女は変わらず
「
それには何も答えなかったが、女は特に気にしたふうもなかった。
「では、これをお返しします」
差し出されたトレーには
「眠っている間に全て
信じられないまま取り上げた
人差し指に
「……ごめんなさい」
「うん」
視線を少しだけ上げて、けれどその顔を直視できないまま
「帰ろう」
優しい声に
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