第33話 英雄⑨
視線の先で振り抜かれた
倒れたクスィの身体から
……あの時?思考が到達した言葉に
意志に反して
「こんにちは、お届け物です」
女の声。そうだ。あれを聞いて僕は玄関に行った。
でも開いた扉の先で待っていたのは想像したような配達員さんじゃ無かった。僕を見て
痛みを感じた時には
そのまま奥に歩いて行こうとしたあいつの足を
身体が跳ねあがりそうな振動の中で、棚から投げ出された食器が次々に割れ、大きなものが倒れる音がした。まるで僕が叫んだ事で世界が崩れ始めたみたいだった。
頭を抱えながら耐え、
恐ろしさから少しだけ
包丁の
苦痛の中に確かな怒りを込めて叫んだあいつが動いたから、
あいつの声が悲鳴に変わり動きが
手が血に
「……はっ、は、ははは、ははははははははははは」
室内に
割れた窓から差し込む光は僕を
街を破壊して、ヒーローを倒した。
「母さん。やったよ。あいつを倒した。倒したんだ。もう立ち上がらない」
僕の声を聞いて、喜んで
「怪我、は?」
理解できなくて立ち尽くした僕の耳に母さんの声が届いた。
「……無い。無いよ」
蹴られたところはまだ痛かったけど、安心させたくてそう答えた。
「良かった」
「すぐ助けるから」
「危ないから、やめて……」
優しい声と共に身体が引かれたかと思うと抱きしめられていた。母さんの身体は
「あいつだって倒せたんだ。きっとできる。今の僕ならきっと……」
そう言って、
「その気持ちだけで十分、だよ」
「嫌だ。嫌だよ。助けるから、僕が絶対助けるから。僕は倒した。倒したんだ」
「……そう、だね」
「なのに、なんで……」
なんで、母さんが死んでしまいそうなのか分からなかった。ヒーローを倒した今、不安の無い
「大丈夫、けいとの所為じゃない。……けいとは何も悪くない。大丈夫。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない。何も大丈夫じゃないよ」
「……約束、守れなくて……ごめん……ね」
母さんは悲しげな顔をした。その
「約束なんてどうでもいいよ。あいつは倒したから。もう逃げる必要もないんだ。街も人も全部僕が壊した。これからは僕が守るから。だから、だから、だから!」
必死に叫んだのに母さんは何も言ってくれなくて、急に僕を抱きしめていた力が弱まった。だからそっと抜け出してまた
口の中に広がった
あの時この手であいつを殺した。病院で目を覚ました時には
気持ち悪さの中、複数の
「クスィに、触るな」
あの時と同じだった。目の前に居るのに何もできない。涙が
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