第22話 もしもあなたが世界を壊してしまうのだとしても①
どうもあの人形は少なくとも明確に一つの事実を隠していたらしい。それは
そうでなければ現在の状況はどうやっても導き出せないらしい。採掘の進展具合とこれまで起きた
つまり鬼の語った本体という要素抜きにして、この状況は説明できない。
「ようやく
部屋に入ってきた
「あれで?」
「ええ、例えるなら人が
切り替わった画面で複数の
「もしかしたら
映し出されていた人形が消え、変わりに
「こいつは?」
「鬼の指先から
「全く違う人形?」
「例えば、非常に人間に
「それが
だから
「分かった。でもそれほどの人形が起動したなら、どうして
「考えられるとしたら、その人形が
もし鬼が語った事が事実で、そんな人形が実在するとしたら、それを放置すれば人形との戦争がもう一度始まってしまうでしょう。でも同時に鬼の言葉が正しいのなら、無差別に人を襲う人形の起動が止まっていない事から、まだ取り返しがつかない所まで事態は進行していないと考えられる。
ただ、現状では情報が少なすぎてそれ以上は分からない。
「そんな人間がいるのにまだ情報を聞きだしてないのか?」
自然に浮かんだ問いが口を
「
「どうして俺の事を?」
「
「なるほど、無理が
「そう、だから今から会いに行ってあげて」
その声には、ただの情報提供者に対するものではない
◆◆◆
「君が
声をかけると、少女が視線を上げた。その顔には確かに
「ええ、あなたが人形を壊す人形さん?」
同意するために
「本当は直接会うことなどできないのでしょうけれど、両親に無理を言いました」
「どうして俺に?」
「両親に
「取引?」
そう思えば彼女の表情には
「私の知っている情報と引き換えに一つだけ頼みを聞いてもらいたいんです」
「それは、どんな?」
できるだけ
「あなた方が探している人形。その隣には少年がいる
人形のそばに少年がいるという事には
「
「分かっています。両親にもそう言われました。けれど私はどうしてもあなたに頼みたかったんです」
彼女の握りしめられた手は
「出来る限りの事をすると約束する」
俺は静かに言った。例えば正解は、力強く
優しい嘘が俺には
「ありがとうございます」
俺の弱い回答にそれでも少女はお礼を言った。
「それで、その少年は人形に
「いいえ、彼は自分の意思で、人形に協力しています」
少女の返答が理解できない。
「どうして彼はそんな事を?」
「あの人形が人間と見分けがつかないぐらい
少女の発言は
「
「はい。
少女の言葉にこの国を襲った
「君も協力していたのだろうか?ああ、別に
少女は少し
「それなのに情報提供を?」
「怖くなったからです。
「不信感?」
「ええ、初めてあの人形を目にしたそんな事は
「そして?」
襲われ、
「……すいません。あの人形は、どうやったかはわかりませんが襲ってきた人形の何体かを破壊して、それでも壊しきれなかった人形によって私は頭を打ち意識を失いました。おぼろげながら彼に背負われて逃げた事を覚えています。
でも、今にして思えば、襲ってきた人形さえ、あの人形の所為だったのではないかと……思うのです」
「どうしてそう?」
少し
「あの人形と彼が、私に何も言わず姿を消したからです。彼は私を巻き込まないようにと思ったのかもしれませんが、それによってあの人形は彼一人を手元に残す事に成功した。
もしもあの人形にとって私という存在が邪魔だったのだとしたら、もしも、あの人形の
酷く責任を感じている
「こんな事になる前に私は彼に不安を告げるべきでした。あの日、
「すいません。少し取り乱しました」
お茶を一口
「いや、おかげで大方の事情は理解できた。それで人形が少年だけは連れて行った事には何か意味が?」
落ち着いたのを
「
「コード?」
「ええ、
「その
「はい」
少年がどこまで理解しているかは分からないが、人形を助けたいという思いが、いつか救えなかった代わりを求める切実さが、もう一度大戦を
「これを」
何と答えるべきか迷っていた俺に少女が小型の
「これは?」
「飼い犬の為に父が作ってくれた追跡装置をアクセサリーにして人形に持たせました。
小さな
「わかった。提供してくれた情報とこれはありがたく使わせてもらう。それから君が情報源だという事はもちろん誰にも話さないから、安心してほしい」
俺がそう言うと少女は首を横に振った
「そんなの……どっちでもいいです。私が望むのは、彼が無傷で返ってくる事だけ。それさえ叶うなら、この事を知られても、それで彼に憎まれたとしても構いません」
その眼光に
「君は強いな」
思わず口にした瞬間。少女の顔が
「……もし本当にそうだとしたら、私は、この手で彼を救えたはずです」
その語気に混じる怒りは自らの無力さに対するそれだった。
「すまない」
「……いえ、彼の事をどうかよろしくお願いします」
謝罪した俺に少女はそう言って深く頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます