諸人挙リテ
「本日の天候は晴れ、最高気温は……」
此方に向かってプラカードを
「今日も沢山の人が集まっていますね。あなたが世界を滅ぼすのだそうですよ」
電動車椅子の
「彼らにはそう思えるんだろう」
「あなたにそんな力は有りません。彼らが何故そんなふう思うのか私には分かりません」
クスィは正しい。実際、ボクに大した力は無いし、世界を支配しているわけでも、そうしようとしているわけでも無い。それでも集まっている人々は
「人間には
「
クスィが続きを聞きたそうだったから、
「君が世界をどう
生まれる前に世界が存在したというのは記録で、死後に存在するというのは想像だ。それでも人がそれを信じているのは今この瞬間、この場所に自らの
仮に今ボクが
「それがどうして彼らが勘違いする事に
答え終わったボクを見てクスィが首を
「えっと、そうだね。人は生まれ持ったものと育った環境によって
結果として人は自らの思考こそが正しいと信じて疑わなくなる。これは
今度は
「あなたもそうなのですか?」
クスィの言葉に
「そうだね。ボクもボクの
「だとしたら誰が正しいのです?」
「誰も正しくない」
「あなたも?」
「そう、誰も
もしも答えがあるのなら、それはより高次の存在。人が神と呼ぶ
だから世界はまともだと思っている人間で
ボクの言葉を聞いたクスィが
こうして見ると正しさと人類の
規制線を
彼らが信ずるところによれば、此処が存在しなかった時代に人が成せなかった事が、此処を壊す事で達成されるほど世界はいつのまにか単純になったらしい。
「こうして見下ろしているとまるで、本当に世界を滅ぼす者に成った気分だ」
もしも彼らが望むようにこの施設を廃止したとして、その場合生じる
だからそんな事になれば、
まして此処は保有する資産に応じた入居費を請求し、それによって得た
それがこの施設の存在を
勿論そうなった場合、政治が
だから人の可能性に命の大切さ、平等と自由を
それに従い続ければやがて、
持って生まれたものが違い。育つ環境が違い。出来る事や思う事が
人は分かり合えない。それだけが真実で、だから誰もが納得するような理想社会は
いや、それ以前に世界がそれを許す
人生とはつまりそんなもので馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。その果てで
「これが正しいのかは分かりませんが、世界を滅ぼす者に成った気分だと言った、あなたの声と現在の表情から
黙っていたクスィが
確かに、不快なら見えなくしてしまえばいいと言うのは
「それはできない。窓が無ければ
言っていて自分でもおかしいと思う。偽りの楽園を提供していても自分はそこに
一定時間視線を外していた事で自動的に拡大表示が終了し、戻ってきた映像が
「百億人目の男の子が今日五歳の誕生日を
動いたカメラが男の子を
より正確に言えば、その発表を有名な巨大病院の産科で待っていた報道陣。彼らが選び出した子供というべきだろう。少なくとも同じ条件が当て
彼はある
「おめでとうございます」
リポーターがお
将来の夢を尋ねるリポーターの声。母親にも優しく聞かれ少し悩むようにしてそれに答えようとしている男の子の姿を見て
窓の大半を青い空と少しばかりの雲が
死んだ子供は
まだ未来を知らず
ただ、絶望しなかっただけの人々が口にする世界は美しいと言う
結局、あらゆる差異は
「大丈夫ですか?」
手を握られた感触に視線を動かすとクスィが此方を見つめていた。
「……ああ、ただ少しだけぼんやりしていただけだよ」
返事を返しながら実際のところクスィは全て解っていてボクの手を
「では散歩にでも行きましょう。あなたの運動量は先週よりも3%低下しています」
「たった3%じゃないか」
優しく
「そもそも、あなたの運動量がどれだけ低いか知っていますか?」
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