第21話 刀鬼⑥
「私は、
差し出された手を
病院のソファーは冷え切っていて最悪ばかりが浮かんだ。人はあっさりと死んでしまう。それを知っていたのに、何故かここまでの危険は無いと思っていて、それどころか訪れた非日常に
「目を
聞こえた声に視線を上げると看護士さんが立っていて、僕を安心させるように
急いで立ち上がりその後に続くと、通された部屋のベッドに寝かされていた
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
その声と笑顔に涙が
「……良かっ、た」
「もう、大げさだよ」
「僕は……僕は、また……」
「ごめん、心配かけちゃったね」
「ほら、恥ずかしいから涙
押し付けられるように渡されたハンカチで涙を
「あー、お取込み中のところ申し訳ないのだけど」
突然響いた声に
「簡易的な検査では異常は見受けられなかったけど、彼女には念のため此処で安静にしていてもらう事になる。専門医が出勤したらもう一度精密な検査をしてもらうから」
「親御さんと連絡が付きました。三十分ほどで来院されるそうです」
僕を案内してくれた看護士さんが戻ってきてそう告げた。
「そうか良かった。それじゃあ僕は少し席を離すよ。でも、何かあったらすぐ戻ってくるからね」
「ありがとうございました」
「
僕と
「
「
クスィの声に
「行ってきなよ。私は大丈夫。何かあったらそこの装置が知らせてくれるし、お母さんたちも来るみたいだから。私の事よりも、
「うん……じゃあ、ちょっと行ってくる。すぐ戻ってくるから」
「嘘をつきました。
「……なん、で?」
信じられなかった。クスィが勝手に連絡をとっていた。手にしている端末がクスィに
「申し訳ありません。けれど千歳のいない場所でお
内容は、もはや私達だけにとどまらなくなった安全上の問題についてです」
その一言で
「どうか、
歩き出したクスィに従って薄暗い病院の中を進む。非常口から外に出た所で、クスィは立ち止まった。
「足止めを指示していた人形が破壊されました」
人形は沢山いたから、あの一体では
「それなら、もしかして此処も?」
「いいえ
返ってきた答えに頭の中が疑問で満ちる。
「それは、どういう……」
「
「
理解できないまま聞き直した。人形が起動した事なんて
「
映像や街中で何度も見た真っ黒な車両が頭の中に浮かぶ、
「いや、でも
そこまで言って気付いた。
「ええ、どうやら彼らはこれまで
「でも、それならとりあえず事態は解決されたって事?」
「いいえ、残念ながら解決していません。それどころか悪化しつつあります。
「僕達に?」
口にしながら、とても嫌な予感がした。
「はい、人形の命令を書き換えた時、同時に
その言葉を受けて人差し指に
「あの人形達は
「
「いえ、それは違います」
「違う?ならなんで?」
「現在の
その
もしもクスィに出会う前なら嘘だと思っただろう。けれど今は信じざる
「どうしたら……そうだ、あの人形にしたみたいに他の人形も命令を書き換えたら」
「現状では個別に行う必要があり現実的ではありません。
「そんな
叫ぶようにクスィの言葉を否定する。いくら何でも
「まって、
口にして、それが
「残念ですが、恐らく
「でも、可能性は
クスィの考えが正しかったとしても、その選択肢を
「確かに可能性は
私の言葉を信じてもらえないという事はつまり、私を破壊すれば
彼らが現状に対する正しい理解を得ていなかった場合、私達は単に
「
たじろいで後ずさりした分だけ
「このままでは街に被害が出ます。人的な犠牲さえ
「……それでも、僕はクスィを壊す命令なんかしたくない」
発した声は、クスィが語る現状の認識なんかじゃなく、クスィに
「
「
そう
「それに言いましたね。記録を失っている事で私が例外的な存在になっている可能性があると、あれはやはり正しかった」
身じろぎ一つできなくなった僕にクスィは
「現在の私に影響を与える事はありませんでしたが、今でも人形の
それを聞いてクスィが
「今も私の
此方をまっすぐに見つめているクスィの言葉が酷く
何度も見る悪夢の
「命令する事が出来ないのなら、これで……」
急に引かれた手。それを
折れ曲がっていたクスィの右腕もいつのまにか直っていて、両手で固定された銃口がその胸へ押し当てられている。
自由なのはただ、引き金を引くための人差し指だけ……。
「私は人形。ただの道具です。道具が人に害をなすならば、破壊しなければなりません。そして道具を破壊する事に
優しく
「私が
自分で引き金を引ければよかったのですが、私にはそれができません。だからお願いです。管理者になる時
助ける為に
初めは僕の事を助けてくれたクスィを助けたかっただけだ。あの時
それはきっとクスィの中にもあって、だからクスィはこんなにも
「確かに僕たちのしてきた事が、今の状況を
「それでは」
反論しようとしたクスィの声を
「クスィを壊せば事態は収まるのかもしれない。だけど不完全に終わった封印と続けられてきた採掘がそもそもの原因だったら。ここでクスィを壊しても人形による被害はなくならない。それに眠っている他の予備人形が目覚めたら、それは世界の理想化に向けて動いてしまうんでしょ?もしそんな事に成ったら、それこそもう一度
必死に考えながら言葉を
「確かに人が採掘を続ける以上人形による被害は出るでしょう。けれど私がこのまま活動を続けるよりも問題が大きくなるのは、この国の技術が再起動を可能にしてしまわない限りは数百年は先の話であり、それは十分に避けられる事です。そして崩壊していない
「あり得ないとは言い切れない訳だ」
「それは……そうですが」
「それなら、ここでクスィを壊す事は最善じゃない。さっき
「可能な
「同じ不確定なら、僕はクスィが変わらない事を信じる。
「けれど、もし事態が想定を超えて悪化してしまったら?もし私が狂ってしまったら?その時はどうするのです?」
「その時は僕が、クスィを壊す。クスィが変わってしまった時も、僕が壊す。必ずそうする。だから、それまではどうか……お願いだクスィ」
「どちらかの状況に
じっと僕の目を見ながら口にされた言葉にゆっくりと
「だとしたら……それを、信じるとして……本当にそれでいいのですか?事態の
「解ってる。事態を
「それだけではありません。
「構わない。それで僕が望む事が達成できるかもしれないなら、全部と敵対して世界を救うんだ」
本当は世界なんてどうでもよかった。ただクスィを壊さずに済むのならそれで……。
僕の言葉を聞いて考え込むように目を
「行こう」
返事を待つ事無くその腕を引いた。クスィは何も言わなかったけれど抵抗される事は無かった。
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