第13話 管理人形③
「……無いんだ。そんなものはもう、この世界のどこにも……」
「どういう事でしょう?」
クストスが無表情のまま首を
「君達を作っていた技術は、とっくに失われてしまった。管理していた組織も
全てが終わっているのなら、せめて不誠実でありたくはなかった。
「それで通信が……
「……ごめん。どうしても君を助けたかったから」
僕が謝るとクストスは首を横に振った。
「いえ、謝罪の必要はありません。
「やっぱり嫌だ」
何か出来なかったかをずっと考えてきたのに。
「何かある
「方法はあるかもしれません。けれど
「僕が必要とする」
「何の為に?」
「君を助けたいんだ。君に生きていて欲しい。僕の認識は、間違っているのかもしれないけど」
「それは私が
「駄目、かな?」
「人形は人に役割を与えられる物です。人であり、
「それなら僕はそれを望む」
「では
そう言われて、ポケットから携帯端末を取り出してクストスに渡す。
「なるほど奇妙な接続方式です」
その発言と共に操作されてもいない端末の画面が発光し、そしてすぐに返された。
「もういいの?」
「はい、
「……そう」
「けれど
「現在
「そんな事が?」
「可能です。私は
にわかには信じがたいが、クストスはそれを疑ってすらいないようだった。そして僕には思いつく
「それなら、すぐにやろう」
さっそく動き出そうとした僕をクストスの言葉がとめた。
「残念ですがそれは出来ません。塔を再起動させるには八か所に分けて保存されているコードを全て取得してから、内部に入る必要があります」
淡々と語るから容易に出来そうに思ったが実際はそれほど簡単では無いようだった。
「コードは何処に?」
「ひとつはすでに私が所持しています。あとは此処を除いた残り七つの
「じゃあ今から、いや、でもここ以外の
「大丈夫です。その
崩れ落ちそうになった僕の気持ちをクストスの静かな声が救った。それがどれほど困難かは分からないけれど、クストスの言葉を信じるなら少なくとも不可能ではないのだ。
「しかし再起動を実行してもいいか、私は
「どうして?それしか方法は無いんじゃ……」
「確かに、方法はそれしかありません。ですが、それには危険が
「僕なら構わない。多少危険だって、今の法律上、問題がある事だって……」
きっと人である僕の安全を最優先にしているが
「いえ、そう言う意味ではありません。問題は私が所持しておらず、人も持っていない記録。
何故人形が大戦を起こしたのか分からない以上、再起動が招く結果を想定できないという事です」
「それは再起動をする事が、もしかしたらまた大戦を引き起こすかもしれないって事?」
僕の言葉にクストスは
「そうです。人形が人を敵とみなした何かが現在も
「でも君は危険な人形じゃない。僕を助けてくれたし、人を優先する
そう
「私の行動を持って再起動の安全性を保証する事はできません。記録の大部分を失っている事が私を例外的な存在にしている可能性があります。もしそうであった場合、再起動を目指す
それに、そうでなかったとしても現在の世界は利用されている
それでも
じっと僕を見つめたクストスの
クストスを助ける事は、世界を危険に
ここに入る前に考えていた命の価値。その差について思い出す。何故その命が救われたのか、何故その命を救うのか、取るべき正しい態度。或いは正しい行動。そんな事を考えながら、それでも、いざ自分がそんな立場に
「それでも僕は君を助けたい」
気が付けばそう口にしていた。
「そうですか、わかりました」
そんな僕の答えを聞いたクストスは、
「ではこれを渡しておきます」
差し出されたから受け取ったその
「これは?」
「対人形用の銃です」
その言葉に受けた印象が正しかった事を知る。この国では普通手に入らない
「それほど
横から近づいたクストスが僕の手に触れ、銃をしっかりと
「こうして
クストスの説明と共に銃身の
「銃弾は内部で自動生成されますので
指を
「どうしてこんなものを」
「再起動を目指す過程で、もし私や再起動自体が人に
「なっ……」
「人形は管理者の命令には逆らえませんので
「そんな事したくない」
首を横に
「いいえ、
「そんな……そんな事言われても……いったい、なにを持ってそれを判断すればいい?」
「それは管理者である
答えられずに静寂が満ちた
「……分かった」
「必ずそうしてください」
銃を両手で
「
それを聞いて
「じゃあ、さっそく一番近い
嘘がバレない内に、行動を開始したかった。
「いいえ、今日は一度帰ったほうがいいでしょう。今から
「でも、クストスには時間が……」
「大丈夫です。そんなにすぐに
クストスの管理者に成った
「……分かった。今日は帰る。でも明日からは
「
無表情のまま同意したクストスの声に満足感があるような気がしたのは、そこから感情を読み取ろうとした僕の勘違いに過ぎないのかもしれない。それでも確かにそう感じた。
それからクストスに導かれるまま通路を進むと、通路は
振り返れば白い壁面に穴が開いている。今僕の指で光を放っている透明な
「ほら、これを着て」
「
クストスにとってみれば、僕の行動はきっと酷く
「いいから、その
僕の言葉にクストスが自分を見る。
そこにはまるで
「人形として何も問題はないと考えられますが?」
思っていた通りの返答を聞きながら僕は首を大きく横に振った。
「あるって、今はもうクストスみたいな人形はいないんだ。誰も人形を知らない。見た事も無い。つまり今のクストスは小さな女の子としか思われない」
「
今気がづいたというような言葉に、
ようやく
「これでよし」
そう言って頷く。正直、とても
「ですがこれでは
「まって、まって、まって」
「だから早く帰ろう。ね?」
「ですが……」
「ほら、こうしている間にも身体が
「
それに
それからクストスの手を
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