第10話 死に損ない②
気が付いたら
白衣を着たお医者さんや、制服姿の看護師さんが来て「大丈夫だよ」とか「安心して」とかそんな事を
女は、椅子に座って僕と視線の高さを合わせた後で、まず
あの人が今回の事を事故だったと証言していると知って、僕もそれを
もしも信じてくれていたなら、去り際に、僕の未来、その為の力に成りたい。だから本当の事を教えて欲しいとは言わなかっただろう。
何か思い出したらいつでも連絡して欲しいと言いながら、女が置いていった
女は質問の大半をはぐらかした僕に怒る事もせず、ずっと優しい顔をしていた。お医者さんや、看護師さんが僕に向けたのと同じ顔。いつかのあの人が僕に向けてくれたのと同じ顔。
「……未来」
それは少なくとも僕には存在しないものだ。最初からそんなものは僕には無く、それを与えられるべき人達はきっと別にいる。
弟にとってあの人は間違いなく優しい母親になる。弟の父親は僕とは他人で、あの人は手に入れた生活がまた壊れてしまうんじゃないかと恐ろしくて仕方がなかっただけだ。
きっと幸せの
もしも崖下に生えていた木が僕を受け止めなかったら、もしも左眼を
僕は死んでいるべきだった。死んでいなければならなかった。けれど
なんて
だからせめて早く手を打たなければならなかった。女が
そう思っているのに人形の
何故だか
押し殺せなくなった
ヒーローが僕を救って、あの人を、皆を幸せにしてくれる。何も恐れる必要はないのだと言い聞かせる。
そうだ。そうしてくれる
決意を
自分がしようとしていた事を
一瞬後、立ち上がった影が僕を
「落としたよ?」
「痛いの?」
隠そうとしたのに、上手くいかなかったのだろう。女の子の顔が心配そうに
「……そんな、こと、無いよ」
だから顔を
押し当てられた
「大丈夫だよ。おじいちゃんがきっとなおしてくれるから」
小さな手が僕の頭を優しく
「死んじゃったお父さんとお母さんはなおせなかったけど、あなたは生きてるから、大丈夫」
「嫌だった?私が泣いてたとき、お母さんはよくこうしてくれたから」
「君の服が、汚れちゃうから」
「そんな事気にしないで、泣きたい時は思いっきり泣いた方がいいって、お母さんが言ってた」
そう言って女の子は表情を和らげた。
「そう、だね。でも、僕はそういうわけにもいかないんだ」
涙を拭いながらそう言うと、女の子は良く分からないという顔をした。
「どうして?」
「……君よりも、大きいからね」
自分は生きていちゃいけない存在で、そんな資格が無いからだとは言えず、代わりになんとなくもっともらしい言い
「私よりも大きいと泣いちゃいけないの?」
「僕の、場合はね。でも大丈夫。君のおかげで涙は止まったから。ありがとう」
笑みを作る事はできなかったけど、涙を止める事はできた。包帯で
「君はどうしてこんな時間に此処にいるの?」
「あー、それはね。おじいちゃんに連れられて、しゅっちょう、した時はたまにこうやって抜け出して散歩してるんだけど、秘密なの。怒られちゃうから、だから、誰にも言わないでね」
女の子のおじいちゃんはお医者さんか何かなのだろうか?いまいち事情は分からなかったけれど、不安そうな顔に真剣な表情で
「約束」
そう言いながら大きく
一気に開かれたそこには今まで見た事も無い
「
振り返った女の子が星空を背景にして、
「あれ?もしかして知ってた?」
その姿に
「いや、初めて知ったよ。
取り
「やっと少し笑ってくれた。そのほうがいい」
そう言われて、自分がいま
「やっぱりどこか痛いの?」
女の子の表情はころころと変わる。
「……違うよ。これは嬉しくて泣いてるんだ。
「そっか、じゃあ良い涙だね。あの星とおんなじ
嬉しそうにそう言うと女の子は再びベッドに上ってきた。追いやられるように横にずれた僕の隣に女の子が座る。その小さな肩が触れるのを感じながら一緒に星を
◆◆◆
目を開けて、見ていた記憶を
関係上、
そもそも
初めて会った時からどこか
交通事故で両親を失ってからその
博士が予想していたように優れた
まず命を助けられて、
だからそれを知った時、
けれど、
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