第6話 咎人②
あれからどれだけ
原因は
スウェットに着替え、携帯用の歯ブラシを持ちながら居間に戻ってきた千歳の姿を想起して、それを振り払う為にまた体の向きを変える。
お風呂で
本当に最低で、でも朝になればきっとこんな気持ちも無くなる筈だと言い聞かせ、眠ろうと努めていた意識が不意に微かな足音を捉えた。それに続く小さな声。
「
「……うん」
「入ってもいい?」
何故返事なんかしてしまったんだろうと後悔する。でも、もう遅かった。
「……いいよ」
答えながら
「どうか、した?」
動揺がそのまま
「眠れなくて、その……そこに座ってもいいかな?」
その言葉に反射的に頷くと、千歳は部屋の照明をつけ、扉を閉めた後でベッドに腰を下ろした。無意識に注視しようとする視線を逸らす。見慣れないスウェット姿は色が違うだけで学校のジャージとほとんど変わらないのに意識しすぎている所為か刺激が強すぎる。
千歳は何か悩み事があって相談に来たのかもしれないのに、そんな事を考えている僕はやっぱり最低だった。
「あー、あのね。岬さんがいつもカップ麺で済ませてるみたいだから心配だって言ったのは本当なんだけど、今日
「え?」
千歳の悩みを聞く為に必死に作ろうとしていた心が乱れた。
「でも安心して、今日、家に二人が帰ってこないって事と
「いや、まずいよ」
まずい。どう考えてもまずい。安心できる要素は一つもない。
「今からでも送って……」
「外は寒いし、こんな遅くに外に出るのは危ないよ。此処に居た方が良い。そうでしょ?だけど、確かに、今日私が泊まっていった事を誰かに知られたらまずいかもね。だからこれは秘密」
唇の前に人差し指を当てた千歳が
「それでね。それで……えっと……」
「……うん」
動揺から、ただ頷きながらやっぱり今すぐに家まで送っていくべきじゃないかと考える。けれど、何故か急に歯切れが悪くなった
やっぱり
「その……して、みる?」
「……なに、を?」
「興味無い?それとも……私とじゃ嫌?」
その言葉に視線が反射的に千歳の身体をなぞっていく。スウェット越しにも分かる自分とは違う曲線的な身体。布団の下で足を引き寄せて、粘っこくなった
「そんな事ないけど……」
「けど?」
こっちを見ている顔が
でもそうだとしても不思議じゃない。手入れが面倒だからと昔から短くカットされている髪。運動で
「けど、なに?」
自分の中に生まれた感情を上手く認識できないでいるうちにもう一度聞かれた。
「その、僕たちは友達で……だから……」
「あー、えっとね。私達もう付き合ってる事になってるんだ。……まぁ、噂でだけど……」
「……そう、なの?」
「ああ、やっぱり知らなかったんだ。でも、これだけ一緒にいてそう思われない方が凄いと思わない?」
そう考えてみてもそれが正しいのか分からない。異性同士のそういった駆け引きに僕は全く通じていない。
それに、もしそこに深い意味があったとしても僕は
でも、もしかするとむしろ此処で
いや、きっと思考が何度も同じところを
周りから完全にそう思われていて、それを
「また、なにか考えてる?」
「あー、その、今からしようとしてる事は、一時の気の迷いによる過ちじゃないか、とか」
次の瞬間に
「フッ」
「それじゃいけない?一時の気の迷いが生んだ過ちだとしても、私は後悔しないよ」
いつもの調子を取り戻した
本当はたぶん僕が踏み出さなきゃいけなくて、
「僕は、その、なんていうか……」
「したことない?」
思わず
「大丈夫だよ。私もだから」
顔を上げると
「ほら、こんなにドキドキしてる」
これまでそうだったみたいに今も
離そうとした唇が軽く噛まれ、驚いた僕を見て千歳が笑った。
「緊張してる?」
「……そんなことないよ」
心臓は破裂しそうで、
「普段どんなものを見ているか知らないけど、そんなに気負わなくてもいいから」
否定したい気持ちと嘘を吐くことに対する拒否感がぶつかって
丸まったそれは
「何してるの?
聞こえてきた問いかけと共に布団がはがされ、制止する前にズボンと下着の
「まっ」
ようやく上げた声が言葉になる直前、千歳の手が一気に引かれた。それが
羞恥から何も言えずにいると、実行した
「こ、興奮してたんだね……」
そう言った
「あっ」
伝わった衝撃に変な声が出た。戻ってきた衣類の外に、充血したものの先端だけが取り残される。
「ごめん、痛かった?」
「いや、ちょっと驚いただけ」
そう答えながら立ち上がって、これ以上何かされる前にズボンと下着を脱いだ。下半身に何も
「く、口で、してあげようか?」
妙な空気に耐えかねたように千歳が
「いや、あれは……、その、高等技術だと思うから」
返した僕の声も
「ああ、そう、そうかもね」
「普通のにしよう」
「うん、普通のね、普通の、初めてだしね」
何が普通なのか、たぶんどっちも知らないけど、そう言って頷き合う。
「じゃあ、とりあえずベッドに寝て、みるね」
その提案に首を縦に振った。それが自然な流れのような気がする。とにかくこの何だか良く分からない状況から抜け出したい。
「見える?ここ」
そう言って千歳は、指を両足の間。整えられているのだろう巻き毛の下に
千歳も僕のものを見て同じような印象を受けたのだろうか?
「あんまりじっと見ないで、恥ずかしいから」
「あっ……ごめん」
そんな中で太ももの付け根近くにあったホクロだけはなぜだか確かなもののように思え、いきなり奥に手を伸ばす勇気も無かったから、とりあえずそれに触れてみた。
瞬間、千歳が小さく声を上げて身をよじった。何かまずい事をしたと思って慌てて手を戻す。
「ごめん」
「ああ、違う。ただ
そう言われて自分の手が人よりも冷たかった事を思い出す。左手で右手を握って温めようとすると、千歳がそれを包み込むように
「これでよし」
温まった僕の手を
包み込む柔らかさをなぞりながら指を曲げると、身じろいだ千歳が
初めて聞いた
「ちょっ……ちょっと待って」
荒い呼吸の合間に制止しようとする声が、どこか遠く聞こえた。指は千歳の弱い所を求めて
「やめっ」
強い口調と共に手を掴まれて身体が硬直し、抜けた指先から、付着した液体が糸を引いた。
「もう十分。私だけが恥ずかしいからっ」
怒りを買ったのではないと理解したのと同時にかき消されていた
「……ごめん」
指に
「上も見せてあげようか」
気遣うような声に視線を向けると交差した手が上着の
声にするのは恥ずかしかったので
身を起こした
「外してみてよ」
上着を完全に脱ぎ去った後で、
「できたね」
「どう、かな?あんまりおっきくないし、ガッカリした?」
不安そうな声に、
「そんな事ない。なんていうか、その、綺麗、だと思う」
「そ、そう、それなら良かった」
「その、触ってみても……」
「いいよ、っていうかもっと大事なとこ触ってたでしょ」
千歳がつっこみながら笑う。慣れてきたのか、段々といつもの千歳に戻ってきた気がする。
「ああ、うん。そうだ、ね。それじゃあ」
声をかけてから胸に触れた。
「えっと、そろそろ入れてみようか」
そう言われて胸から手を離した。少し名残惜しかったけれど
「つけてあげる」
千歳はベッドの上に転がっていたパッケージを拾い上げて
「じっとしてて」
そう言われて身体が動かないように耐える。
「そう、そのまま」
まるで何か重要な処置を施している
それがクルクルと展開されてあっという間に根元まで
「うん、たぶん上手くいった。じゃあ、ね?」
その言葉に
「そのまま、ゆっくり前に」
言われるがままぎこちなく前進させると、想像していたよりもずっと
「入っ、た?」
その声が少し苦しそうに聞こえる。
「先っぽだけ、でもこれ以上は」
「心配しなくても大丈夫だよ。そういうふうにできてるんだから」
そっと背中に
強引に抵抗を超えた感覚。肌と肌が接した瞬間、
「だ、大丈夫?」
「だいじょう、ぶ、でも、少しだけ待って」
「
視界に映る
「たぶん
そう言って
「大丈夫」
くり返された言葉にいつかの声が重なる。
「大丈夫、だよ」
僕を引き寄せようとした
自分がしてしまった事に気付いて、けれどもうどうしようもなかった。身体はまだ震えていて抜けたものはもう
「……ごめん。本当にごめん」
「気にしないで、初めてだし、きっと、その……今日は、やっぱり帰るね」
服を拾った
最低だった。そのまま布団を引き寄せて頭まで
◆◆◆
どれだけそうしていただろう。布団から
重い足を引き
机の上に腰かけたり、椅子の背もたれに気だるげに腕をのせたりしている彼女達の表情から伺えるのは、嫌悪や
僕は千歳を見上げ愛想笑いを浮かべようとして失敗した。向けられた冷ややかな眼差しに背筋が凍る。千歳の口が開き、そこから言葉が……。
◆◆◆
悲鳴と共に目を開けると、そこは自分の部屋だった。カーテンと壁の隙間から陽光が
時計を見るともう十時を過ぎている。
「
「寝てるの?鍵かけ忘れて……」
音を立てないように動きながら手を伸ばす。間に合いそうにない。
扉の取っ手が
理解できないままに逃げ道を探す。部屋の外には出られない。
「
すべき事を
「あのさ、まさか本当にまだ寝てるわけじゃないよね?」
想定と違う声。さっき
「そのままなら布団引き
もうどうにもならないと
「……ごめん」
「それは昨日聞いた。それより映画を見に行くから、支度して」
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