夏休み、二人旅
秋風 優朔
プロローグ
セミがどっかで鳴いている。携帯のカレンダーは8月。ただでさえアホみたいに暑いのに、セミのおかげで2倍くらいは暑く感じる。
そんな駅のホームで、何故か半袖の無い制服のシャツの袖を限界まで捲り、邪魔でしょうがないネクタイをほとんど意味を成さない程まで緩める。
隣のベンチでは恋人の夏帆が今にも溶けそうになって、俺と同じように制服を限界まで着崩している。
さて、何故こんな時期に暑苦しい制服を着て駅に居るのかという話だが、テストで二人揃って毎回赤点を取り続けた結果、顔を真っ赤にした担任に夏休みを丸ごと潰しての補習を二人揃って仲良く言い渡されたからである。
そして、今は補習が終わってその帰り道。
「拓海ぃ~、電車、まだぁ?暑くて死んじゃう~」
夏帆が言うので近くの掲示板に目をやるが、タイミングが悪かったか、次の電車は15分後だった。
「あと15分だってさ。それより夏帆、補習分かったのかお前」
直後、「うげっ」といういかにも分かって無さそうな声がした。
「いいんだよ勉強なんか出来なくたって。死なないし」
「そうだな、死なないし」
こんな調子だから赤点を連発しているのは分かっているが、分かって変わるのなら苦労しない。
「ほんと、なぁ~んで勉強なんかすんだろうね、それも今この一番楽しい時期に」
「さぁな、頭の固いおっさん達の考えることなんてわからん」
「勉強なんて別にいつでもできるじゃん、最悪80歳のおばちゃんでもできるじゃん。でも、今は今しかないのになんでこんなことしてんだろ」
夏帆がそう言って足をブラブラさせていると、ちょうど電車がホームに入ってきた。とは言っても、この駅には2つ違う路線が走っていて、今来たのはもう一つの路線の車両。乗っても家の最寄りには行かない。
短い停車時間が過ぎて再び電車が動き出す。それを見て、一つ思いついた事を何も考えずに口に出した。
「今のもう一つの路線に乗って、いつもと違うどっかに行きたいな」
「それだぁーーーーー!」
すると、夏帆が急に立ち上がったと思うと、ものすごい勢いで叫んだ。
「どれだよ」と痛む耳を軽く押さえながら聞くと、「それだよ!」と意味不明な返答が返ってきた。
「だからどれだよ」
「それ!そのもう一つの電車に乗るってやつ!」
それがどうしたのかを聞いているのだが、夏帆はジタバタしている。
「やっと思いついたよ、このつまんない夏休みをなんとかする方法を!」
「はぁ、一応聞くけどどうすんの?」
「だ~か~らぁ!」
このあと、電車が来るまででなんとか解読した夏帆の計画をまとめるとこうだ。
明日、今日と同じように学校に行くふりをして、家を出る。が、鞄の中身は教科書ではなく着替えやありったけのお金。そして駅で合流し、いつもとは違う路線の逆方向の電車に乗る。そのままどっかに行ってもう明日と明後日しかない夏休みを満喫し、ついでに補習をサボってしまおう。以上。
そのどっかが聞きたかったのだが、「どっか!」で終わってしまった。
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