第2章 裏切りを知る
「お
新婦の
「
ドレスの
用意された香りの弱いトルコ
「本当に愛されていますね。慣れない
「私も嬉しいわ。不安に思うことがない訳ではないけれど、リタがいてくれたら本当に心強いもの」
そう言うとリタが目に
「……お嬢様なら幸せになれますよ。これまで……たくさん、たくさん努力されたから、アントニオ王子との
「最高のプレゼントだわ」
そう言いながら声に出して笑ったけれど、目に涙が
「そう言えば、
あんなに立派な剣なのだ。後を
「
そう言うと、リタは小さく「そうですか」と言った直後、「で、耳を押さえて何をしてるんですか?」と
「……二つ
「あぁ……。耳が良すぎるのも大変ですね。良いじゃないですか、控え室の会話くらい聞いちゃえば」
「やめてよ。
「しようがないじゃないですか。聞こえてしまうんですから」
「しかもアントニオ王子もいるのよ」
「うっわ……。天国か
リタはそう心底不快そうな表情を前面に出して言った。
その時、ドアの前で足音が止まったかと思うと、ノック音がして、意識がそちらに向かった。
「はい」
「リリアン=レグルスと、ウォルアン=レグルスです。ご
リリアン様とウォルアン様といえば公爵様の十歳の
「初めまして、リリアン=レグルス様、ウォルアン=レグルス様。ティツィアーノ=サルヴィリオと申します。ヴェールをかけたままでのご挨拶をお許しください」
セットされた長いヴェールを下げたまま挨拶をした。
「僕らの方こそ、お
ヴェール
ウォルアン様は穏やかに
そのリリアン様が花の
「……
「……え?」
思いがけない言葉に自分の体が固まった。
じわりと足先から登ってくる不快な何かが全身に
「リリアン!? 何を言うんだ!?」
「お兄様には貴方なんかよりもっと、ずっと大事にしている人がいるっていうことよ。勘違いしないように先に教えてあげるべきだと思って」
思わぬ発言に
「レオン、とうとう
何度も耳にした、……聞き間違えることのない国王陛下の声。
「陛下、彼女と私の関係は
「しかしシルヴィアの
「彼女は僕のですから。
「分かっておる。お前達の間に割って入れる者などおらんよ。先の
「ええ。その戦いでシルヴィアは
ざわりざわりと、足元から不快なものが
「
「そうですね。それより僕は公爵がティツィアーノを落としてくれたおかげで、一安心しているところですよ。公爵、僕が渡してやった彼女の情報は役に立っただろう? 彼女の好みから
二週間前に私に婚約破棄を
元婚約者が口にした
「……そうですね。全てアントニオ王子、貴方のおかげです。彼女と結婚することで、国も安泰に
低い、バリトンの……甘い声が、私の心を叩き
これほどまでに自分の能力を
……最初からおかしいと思っていたのだ。
彼のような地位も、
彼を知ってからこの十年、意識をしなくても、彼の
最強の竜種を退治したとか、軍の改革、五十年前に奪われた南部の
そんな話を耳にしながら、いつかアントニオ王子の横に立つ時、彼に立派な王太子
結局はアントニオ王子との婚約は
婚約破棄を
だからこそ、公爵に求婚された時、私なんかで良いのかという複雑な思いと、嬉しいという気持ちで
けれど、……彼は
貴族で政略結婚は当たり前だ。それなら初めからそう言ってくれれば良いのに。
『政略結婚などではなく、お嬢様の意思決定に委ねたい――』
そんな言葉はいらない。
甘い言葉も、手紙も、
初めから期待なんかしないのに。
鏡に映る自分を見て
何を調子に乗っていたんだろうか。
彼のプレゼントも、手紙も、気配りも所詮国の為でしかなかったのだ。
母にも認めてもらえず、婚約者から女らしさもない野ザルと言われ、新しい婚約者にはすでに心を
私の人生は何なのか、新しい生活もこんな気持ちで過ごしていかなければいけないのか。
まだ、アントニオ王子との結婚には自分にできる目標があった。
戦場でも、私生活でも彼を支える『シルヴィア』がいるのに、私の居場所はどこにも無い。
夫にすら
彼の気持ちが私にないならいっそ……―――― 。
「――……アーノ嬢? ティツィアーノ嬢?」
ウォルアン様の声でハッと我に返る。
「あの、妹が大変失礼なことを言い、申し訳ありません」
慌てたように頭を下げるウォルアン様だが、きっとシルヴィアという兄の恋人の事は知っているのだろう。
リリアン様は
彼女はシルヴィアという人を
そうして、リリアン様の前に
「な、……何よ!?」
「リリアン様。ご助言ありがとうございます。
「え!?」
―― あ、『愛する人』の前に『いつか』をつけ忘れたけど、まぁ結果は同じだしどうでもいいか……。
そう思いながら、驚くリリアン様の手を取り、「貴方の勇気あるご助言に感謝いたします」そう言って
「お嬢様!?」
「結婚は取りやめよ、リタ。出るわよ」
そう言って窓を全開にする。
「はい!? 何をおっしゃっているんですか!?」
「ティツィアーノ嬢!?」
ウォルアン様が
「ウォルアン様、公爵様に、『お
そう言って慌ててついてきたリタと二階の窓から飛び降りた。
「お嬢様!! どういう事ですか!?」
リタが
「公爵様には他に昔から愛する『シルヴィア』という方がいらっしゃるのよ。それを、バカ王子が婚約破棄したから
先ほど聞こえた内容を説明しながら、私もリタの隣に繫いであった翼馬に飛び乗ると同時に、視界を
私より顔色を悪くしてリタが信じられないと
「だから言ったじゃない。
「……私はお嬢様のそばにいますよ。ずっと」
と優しい
「で、これからどうするんですか?」
「とりあえず、レグルス
「……は?」
「レグルス邸で働くのよ」
「……は? あれ、
「『シルヴィア』を見に行くわ」
「……何の為に?」
「国王陛下にすら『
「そんなことする必要あります?」
「あるわ。元婚約者に『野ザル』と言われ、求婚された相手には魅惑的な恋人。……綺麗になって、過去の男達に後悔させてやるのよ!」
「え、伯爵家出たら見せつける事もできないんじゃ……」
「敵を知らなければ勝負にならないわ。情報を集めるの。今回は勝ち目がないと逃げたけど、戦う準備をするのよ!!」
「
「いいえ、これは戦いよ。私をコケにした男たちに
「えー……」
「それに、レグルス公爵領には『必ずなりたい自分になれる』という美容の専門店があるのよ。確か『レアリゼ』というお店だったかしら。最近王都の女性たちもそこに行って美しくなって帰ってくるそうよ」
「えぇ? 新手の
彼の求婚が始まってから色々レグルス公爵領について調べていた時、
最近女性がレグルス領で美しくなって帰ってくると。
貴族の
「いいじゃない。行ってみる価値はあるわよ。交易も
「なんか方向性間違ってません?」
そう言ったリタの言葉に聞こえないフリをして、「何か言った?」と聞き返した。
「……あぁ、もう好きにしてください。で、どうするんですか?」
「とりあえず公爵様は結婚式が終わったら、ハネムーンの前に一度南部の魔物対策の急ぎの用を済ませるはずだったでしょう? 南部に行けば往復だけでも一週間は帰ってこないわ。その間だけ、私が結婚した際一緒に連れていくはずだったメイドとして
「うまくいきますかね……。お嬢様は
「うまくいかすのよ」
そう言って後ろに束ねていた
「お嬢様!?」
「人はね、
団長として大人っぽく見せようと出していた額も、長い髪も、ショートカットにして、
「分かりました」
リタは顔を
「それからリタ、公爵邸から事前にもらっていたメイド服があるわよね。予備も
そう言ってリタの翼馬に
――「ここの結界は
レグルス公爵家のメイド服に
「そうですね。一度入ったらこっそり
「もちろんよ。
そう言って、公爵家の正門の前に立った。
門番にサルヴィリオ家から来たと伝えると、すんなりと応接室に通され、執事のアーレンドさんが対応した。
目があった
「ようこそ、お越し下さいました。我が主人からティツィアーノ様が連れて来られる侍女の方々を
そう言って、調理場から、客間、
その時、メイドの一人が足早にやって来て、「
――早すぎる! そう思いながらも私もリタも顔に出すような
――
髪も切った。令嬢の格好もしていないし、騎士服も着ていない。手は
―― 令嬢らしさのかけらなんて無い。
「では、お二人も旦那様のお
そう
大きな
艶やかな黒い髪に、ダークブルーの瞳。
そこに立っているだけでざわりとした色気と、相手を
整った顔立ちに女性が
彼こそが間違いなく公爵様だ。
ダークブルーの瞳は
私に
本来ならもう結婚式を終え、二人で南部に向かっている予定だった。
今日の朝まで自分の新しい生活に胸を
「お帰りなさいませ、旦那様」
アーレンドさんの挨拶と同時に私もリタも彼のそれに
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