第2話

「はーい。じゃあタンバリンのみんなは、ここに並びましょう」

 声を掛けて掲げたタンバリンを鳴らすと、ホール中に散らばっていた子供達がタンバリンを振りながら駆け寄ってくる。

 十二月の学習発表会で予定されている年少組の出し物は合奏とダンス、合奏の責任者は私だ。これから約二ヶ月でこのひよこ達に演奏を覚えさせ、舞台に上げなければならない。

「十六、十七……十八、十九?」

 予定より二人多いメンバーに、思わず手元の名簿を確認する。名簿では確かに十七人だ。

「じゃあ、お名前を呼びまーす。呼ばれたらお返事して、タンバリンを持ち上げて振ってね」

 はーい、と明るく答える子供達の名前を、今度は一人ずつ呼びながら確かめていく。確かに、十七人のはず。でも数えるとやっぱり十九……まさか。思い当たった可能性はひとまず胸に秘め、今はすべきことに取り掛かった。


 お迎え組の園児達を送り出して職員室へ戻ると、三時を過ぎていた。保育時間は済んだとはいえ、これからまだすることは山のようにある。

 『ほんとだ そっちに行っとる』

 昼休憩に送っておいたメッセージの返信は、予想どおりのものだった。多分、私達が話題にしたからだろう。

 『久し振りに話題になれて 嬉しかったのかもな』

 続いて届いた一通に同意を返し、熱いコーヒーを一口飲む。本棚から取り出したファイルを開き、いもほり遠足の指導案作成に取り掛かった。

 私の方に来て活動に参加したところを見ると、やはり子供達と関わるのが好きなのだろう。彼らが成仏しているのはもちろん、初めからいやな存在でないのは分かっている。子供の頃はいつも、風化して小さくなった地蔵の前で手を合わせていた。遊びに来たのなら楽しんでいけばいいが、私にまとわりつく呪いが悪さをしないか、そこだけは心配だ。

――お前と結婚したら死ぬって、親が言うとったわ。

 久しぶりに思い出した誰かの嘲りに、ふと手が止まる。一息ついて、再び『ねらい』の欄にペンを走らせていく。『友達と助け合いながら作業することで、思いやりの心を育てる』。いつもと似たような言葉を連ねながら、いつものように優しい心が育つように祈った。

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