従者は魅入られるようです

 その光景は、テイサハの街でも目撃されていた。

 シュリヒテがスタルカに同行させた使い魔ネズミの視界――それを、魔道具を用いて空間に投影することで。


 その投影された映像を見ることが出来る距離にいる人間。

 その全員が思わず唖然として見入ってしまう。抗戦を続けていた手を一瞬止めてまで。

 映像の向こうの少女の行動に。


 もちろん、その中にはシュリヒテとブランも含まれている。

 いや……だが、ブラン一人だけはどうも様子が違った。


 度肝を抜かれている様子の他の全員と違い、ブランだけはを抱いていない。


 ブランは笑っていた。それを見て。我知らず、面妖な笑みに顔を歪めてしまう。

 爛々と目を輝かせながら、映像の向こうの少女を見つめる。

 その一挙手一投足を、見守る。心を躍らせながら。


 その様子に気づいたらしいシュリヒテがぎょっとした目を向けてくる。

 それにも構わず、ブランは少女の行動に目を奪われ続ける。


 そうしながら、思う。

 ……やはり、自分の目に狂いはなかった。

 いや、違う。からこそ、この事態に繋がったのだ。


 誰もが、『最美』の祝福を侮っていた。この自分でさえも。

 地上にもたらされた〝最上の祝福〟達の中で、一番脆弱なものであると。

 美しさだけを武器に媚びを振りまくことしか出来ない、卑しい能力であると。


 しかし、それがどうだ。今、自分に見えている〝アレ〟は。

 あの姿のどこに、そんな評価や嘲りを重ねられるというのか。


 まるで違うではないか。

 『最美』の祝福を受けた人間が歩むと思われていた道。取ると考えられていた行動。

 それとはまるっきり正反対、真逆にも程がある。


 世界中の誰も、この祝福をこんな風に利用しようとは考えないだろう。

 世界中の誰も、こんなまともじゃない道を進もうとはしないだろう。

 世界中の誰も、その発狂してもおかしくない苦しみと痛みに耐えられはしないだろう。

 世界でただ一人、我が主人あるじだけを除いて。


 そんな、この世界の全ての裏をかいてみせるような反則行為チート

 その究極の結果が、今、この映像の向こうで、あの場所で、華々しく披露されようとしている。

 胸が高鳴ってしまうのも、昂ぶってしまうのも当然だろう。


 世界で最も美しいその姿、その体。

 それを極限まで、誰も意図していなかった方向へと研ぎ澄ました。

 そんな、まさしく人間大の金剛石ダイヤモンドのような肉体を用いて放たれる攻撃。


 世界で最も美しい少女の、世界で最も美しい拳。

 最も美しく、最も硬く、最も強く。全てを打ち砕く究極の武器。


 それが振りかぶられ、深呼吸の後に振り下ろされる。

 ああ、あれこそはまさしく――。


 『最美なる拳骨ファビュラスブリット』――!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る