魔術師と忍者で組むようです その1

「……いや、スタルカ……それは……」


 それを聞いたシュリヒテが口を開く。かなり戸惑っている様子で。


 あまりにも予想外の申し出だったからなのか。

 それとも、その方法だけは最初から論外だと断じていたからなのか。

 恐らくその両方なのだろう。

 それが伝わってくるような表情で、スタルカを見てきた。


 そして、恐らくを続けようと――。


「――――」


 したのを、クロウシが手で制していた。遮るようにして。

 またも軽く驚き、当惑する様子のシュリヒテ。それを、クロウシはさらに目だけで抑える。


 それが伝わったのかどうか。シュリヒテは軽く息を吐くと、一歩下がった。

 それを確認したクロウシが、今度はスタルカの方へ真っ直ぐ向いてくる。

 鋭く、睨みつけるような視線と共に。


「……出来んのか? お前に」


 口を開き、そう問いかけてくる。シュリヒテと役割を交代したように。


「確かに、ってことは知ってる。魔術の威力も、全力なら並の魔術師を遙かに超えているんだろうさ。数十人どころじゃねえ、下手すりゃ数百人の魔術師が束になってようやく同等かもしれない。お前の魔術はそんなレベルのシロモノだ。それは認めるよ」


 クロウシは「だが」と続け、


「同時に、その魔術はとんでもねえ〝欠陥品〟だ。一カ所に目標を定め、威力を集中させることが出来ない。それどころか、味方まで巻き込む無差別な範囲攻撃魔術の形でしか放つことが出来ない。自分でもわかってんだろ?」


 クロウシは厳しい口調で問い続ける。


「そんな能力ちからで、どうやって結晶鎧竜の鱗を砕くってんだ? ああ?」


 あの鱗を砕くには魔術による集中攻撃が必要だ。

 故に範囲攻撃では威力が分散されてしまい、砕くに至らない。その可能性が高いだろう。

 クロウシはどこまでも冷静に、冷酷に、そう指摘してくる。


「それじゃあ、お前が行ったところでカッさんは助けられねえよ。むしろ、カッさんをその魔術に巻き込んで足を引っ張るだけだ。つまり、今のままのお前じゃってこった」


 それでも行くつもりか?

 クロウシの問いかけはもはや詰問に近いものであった。

 鋭くスタルカを睨みつけてきながら、ほとんど脅すようなその態度。


 しかし、口にする内容はむしろ反論できない理詰めでスタルカの意志を挫こうとするものである。

 それは案外、クロウシなりの気遣いなのかもしれない。スタルカの無謀を諫め、危険を冒させないための。

 シュリヒテがそう諭そうとしたのを自分が引き継いだのだろう。

 だが――。


「……行く」


 そんなクロウシの圧に屈することなく、スタルカは真っ直ぐにそう答えた。


「……話、聞いてたか? 今のままのお前じゃ無理だって言ってんだよ」

「……無理じゃない。無理なんかじゃない。やってみせる」

「ハッ、どうやって?」


 鼻で笑うクロウシを睨み返しながら、スタルカは答える。まるで、宣言するかのように。


「――。私の範囲攻撃魔術を、一カ所に。誰も巻き込まずに、結晶鎧竜の鱗だけに魔力を束ねてぶつける。そのために、この能力ちからを、制御してみせる!!」


 決然と、そう言い切った。


 勇ましく大声を出したせいか、やや荒い息を吐くスタルカ。

 そんなスタルカへ、対照的にどこまでも醒めた様子のクロウシが再び問いかけてくる。


「……本当に出来るのかよ? 今までずっと出来なかったくせに」

「……やるよ。やらなきゃいけないの、私が。そうじゃなきゃ、みんな死んじゃう。だったら、怖じ気づいてる場合じゃない。やるしかないでしょ」


 スタルカは少しも迷うことなく、力強くそう答える。


 古竜よりも先にクロウシへと挑みかかるようなその態度。

 決心は固い。止めても無駄だ。そう言わんばかりの。

 睨み返してくるその瞳から、それを悟ったのだろうか。


「――はぁ~……ったく……そうなんだよな~……。悔しいことに、お前の言うとおりの状況なんだよ」


 突如クロウシは盛大な溜息を吐くと、そう言った。

 先ほどまでの張り詰めたものを全部投げ捨て、いつも通りの飄々とした態度に戻りながら。


「……お前がちゃんとそこまで理解わかってるってんなら、しゃーねえ。俺もいっちょ、覚悟決めるか」


 といった感じではありつつも、クロウシは確かにそう言った。

 そして、シュリヒテの方を向く。


「おっさん。そういうことだから、俺達で行ってくるわ。その結晶鎧竜とやらの鱗を砕きに」


 そんな風にあっさりと、言い放った。この場の誰も予想していなかった言葉を。

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