従者が仕えるようです その1
「それで? これからお前はどうするつもりなんだ?」
カティはその後、早速二つ目の命令としてブランを席に戻らせた。
いつまでも片膝つかれたままで礼を捧げられるのはむず痒い。
「ブラン。お前が何者なのかについては大体わかった。お前がどうして今日オレ達の前に姿を現し、共闘してくれたのかについても。それはもういいとして……」
カティは改めてブランに問いかける。先程までとは違い、純粋な興味本位で。
「お前の今後が気になる。一応お前の職務放棄についてはこれで手打ちだ。今後も追求するつもりはねえ。オレは別段お前に恨みも執着もねえから、晴れて何に縛られることもない自由の身になったと考えてくれても構わねえよ」
至極あっさりとした様子でカティはそう告げる。
「だから、今後はお前の好きにしたらいい。誰に課されたのか知らんが、役目が嫌なら放り出してもいいぞ。文句は言わねえ。ただ、今後も影からオレの後をつけ回すのだけは勘弁して欲しいところだが」
「――でしたら」
ブランはそれを聞くと、座ったままでカティの方へと体を向けてきた。
「もしも、お赦しいただけるのであれば――改めて正式にカティ様の〝従者〟として御身に仕えさせていただきたく……心より、そうお願い申し上げます」
さらに、深々と頭を下げながら、そう申し出た。
「そうさせていただけるのであれば、我が全身全霊の忠義でカティ様をお支えし、この先
カティは相変わらずのその持って回った言い方に辟易した顔となる。
だが、どうにかそれを自分なりに解釈して、確認する。
「あー……つまり、オレの従者になりたい、ってぇことはだ……オレの仲間として、パーティーに加えて欲しいってことでいいのか?」
「……カティ様がそう望まれるのであれば、その解釈でも構いません」
妙な間があったものの、ブランの方でもそう認めてきた。
さて、どうしたものか。カティはその申し出に対して、
「ふーん、まあいいよ。お前がそうしたいって言うんなら」
「いや、あっさりすぎない!?」
大して考えることもなくあっさりそう許可した。
それに対して、何故かクロウシが間髪入れずにそうツッコんでくる。
「あんだよ、クロウシ。なんか不満でもあんのか?」
「あるのは不満っつーか〝不審〟だよ! こんな怪しい奴、そんなにあっさり仲間に加えていいのかよ!?」
そう捲し立てるクロウシ。椅子から立ち上がり、ブランを指さしながら。えらい剣幕である。
そんなクロウシの言葉を受けて、一応カティも今一度考え直してみる。一体それの何がマズいのか。
ややあって、気づいた。
「言われてみればそうだな。ブランがどれほどの力量で、一体何が出来るのかを確認してからじゃないとな。実力が釣り合わなかったり、戦闘における役割が被ってたら問題だし」
「いや、そういうことでは……!?」
ポンと手を叩くカティに、クロウシは渋い顔でそう言ってくる。
「ああ、そういうことでしたら」
その時、今まで二人のやり取りを黙って聞いていたブランが口を挟んできた。
「私は一応、聖職者の振るう〝奇跡〟の力を何でも一通り扱うことが出来ます。それを用いて、戦闘においての役割としては主に〝後方での支援〟を担当できるものかと」
さらに、にこやかな笑顔でそう申告してくる。
「よし、採用!」
「確かに今の俺らのパーティーにとって喉から手が出るほど欲しい人材だけども!?」
それを聞いたカティが立ち上がり、身を乗り出しながらそう決断する。
が、それに対してクロウシはなおも食い下がってくる。
「はぁ~、なんだってんだよ? これ以上何か問題あんのか? ねえだろ、もう?」
「大ありですけど!? そもそもこんな正体不明の胡散臭い奴と組めるかっつー話だよ!」
「正体なら明かしてくれただろ。あー……平たく言えば、〝オレの従者になりたくてずっとストーキングしてた男〟だって」
「尚更信用できんわっ! 大体、あいつがこちらに明かした情報も全然わけのわからんものばっかりだったじゃねえか!」
あんたの方は勝手に納得してたみたいだけどさぁ!
クロウシは叫びながらそう指摘してくる。
「一体どこの誰なのか。どうしてカッさんの従者になろうとしてるのか。従者になって何がしたいのか。そこら辺が全然明らかになってねぇじゃん! それについても根掘り葉掘り聞いとくべきじゃねえの!?」
「ん~……って、言われてもなぁ……」
クロウシの追求に対して、カティは頭をくしゃくしゃとかきつつ、
「そこら辺、正直あんまり興味が湧かねぇんだよな。気にするほどのことでもねえんじゃねえの? 誰にでも話したくない事情ってのはあるもんだろ」
「いくらなんでも大らか過ぎる……!? もっと細かいこと気にして生きろよ、どんだけ大雑把なんだあんた!?」」
これまでの付き合いでそういう性格だってのは理解できてきたけども!
そう叫びつつ。クロウシはいつの間にやらカティの前まで近寄ってきていた。
さらには両肩を掴み、ガクガクと揺さぶってくる。
「うーん、でもなぁ~……」
なすがままに揺さぶられつつも、カティは呑気な声で反論する。
「コイツ、料理できる上に、作ってくれたもん全部美味かったからなぁ~……正直それだけでも仲間に加える価値があるっつーか……」
カティはそう言いつつ、視線を流してブランを見る。
それに気づいたブランも小さく咳払いをすると、にこやかな笑顔でこう応じてくる。
「それに限らず、掃除、洗濯、身の周りの細かいお世話に至るまで、カティ様に関する雑事は全て従者である私めにお任せください。どれも御満足いただけるよう完璧にこなしてご覧に入れましょう」
「ほらな?」
「一家に一台欲しい逸材!?」
クロウシが素っ頓狂な声でそんなツッコミを叫ぶ。
それにしても、どんどん外堀が埋まりつつある。このアピールを前にしてブランに魅力を感じない人間はいないだろう。
クロウシですら一瞬揺らいだのだろうか、ブンブンと首を振っていた。
そうして冷静さを取り戻したのか、今度は矛先を変える。
「おい! 黙ってないでお前も何とか言ってくれチビ助! それともお前も賛成派だってのか!?」
「えっ、えぇ!? わ、わたし!?」
クロウシから急にそう振られて、スタルカが驚きに声を裏返らせる。
今までおろおろと成り行きを見守っているだけだったスタルカ。
だが、クロウシはそれでも〝自分と同じ意見のはずだ〟と判断したらしい。味方に引き入れて流れを変えようという腹積もりなのだろう。
「わ、私……は……その……」
しかし、スタルカはそう言葉を詰まらせる。おどおどと下を向きながら。
すぐには賛成とも反対とも意見を発せないところをみるに、どちらにも決めかねているようである。
スタルカにとっては大好きで憧れでもあるお姉ちゃんのカティ。そんなカティの決めることに間違いはないと、いつもならそう思ってくれているはず。
しかし、ブランという男を全面的に信用するのもどうかとも考えているらしい。
そんな二つの思いがスタルカの中ではせめぎ合っているのだろう。
そう思われるような悩ましい顔つきで、スタルカは小さく唸っていた。
そこへ――。
「――スタルカ様」
「へっ? は、は、はい!」
いつの間に移動したものか、ブランがその目の前まで近寄っていた。
急に声をかけられて驚きつつ、体ごとそちらを向いてしまうスタルカ。
ブランはさらにそんなスタルカの前で片膝をついてみせる。ちょうど、先程カティに向かってそうしていたように。
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