お姉ちゃんになるようです

 さて、そこから時は少し進んで、二人並んで歩きながら街へと戻る道すがら。


「ところで、仲間になってくれるのはいいんだが、一つ言っておきたいことがある」

「なん……ですか? カティさん?」

「それだよ!」


 小さく首を傾げるスタルカに、カティはビシッと指を突きつける。


「同じパーティーの仲間で、オレ達は対等な立場なんだ。どっちが上も下もねえ。だから、言葉遣いは自然なままでいい」

「わ、わかりま……じゃなくて……わかったよ、カティさん……。こう……?」

「そう、それでいい。それと、呼び方の方もどうにかなんねえか? 『さん』なんて付けられたら、くすぐったくてたまらねえ」

「だけど、呼び捨ては……」


 それには流石に戸惑う様子を見せるスタルカ。

 なので、カティは「仕方ねえな」とばかりに提案する。


「だったら、『おじさん』はどうだ? お前みたいな年頃の子供からは、そう呼ばれるのが一番しっくりくる。オレ的には」


 だが、それに対してスタルカは思いっきり眉根を寄せて、不可解といった感じの顔を向けてきた。


「……どうして? カティさんはどう見ても『おじさん』じゃないよ? そんな風には呼べないし、呼びたくない」

「じゃ、じゃあ、『お兄さん』はどうだ? そう呼ばれる歳でもねえから若干気恥ずかしいが、まあ許容範囲だ」

「だから、カティさんは『お兄さん』でもないよ? 変な呼び方するのは私もイヤ」

「お前、意外と強情だなぁ……」


 困り果てたように溜息を吐くカティ。

 それを見るスタルカもカティの意図が読めないせいか困惑していた。

 だが、すぐに何か合点がいったような顔になると、今度は向こうから提案してくる。


「そ、それじゃあ、『お姉様』……は、どうですか?」


 そういう感じの呼び方をして欲しいなら……。

 何やら若干頬を赤らめながら、上目遣いにスタルカはそう言ってきた。

 何故か咎めたはずの丁寧な言葉遣いまで復活している。


「それだけはやめてくれ。どうしてかはわからんが、背筋がゾワゾワする……!」


 だが、カティは即刻それを拒否した。

 そう呼ばせることに何かを覚えた。


 却下されたスタルカは不満げに口を尖らせつつも、諦めずに代案を出してくる。


「じゃあ、『お姉ちゃん』は?」

「うっ……。うーん……」

「これもダメなら、『カティさん』のままで」

「うぅ~……むぅ……」


 目をぎゅっとつぶり、腕を組んで唸りながらこれでもかと悩むカティ。

 しかし、やがて深い溜息を吐き出すと、折れた。


「……わかった。お前に譲る。『お姉ちゃん』でいい、一番マシだ」

「……うん! それじゃあこれからよろしくね、


 スタルカの表情筋はもう自然とを作れるようになったらしい。

 嬉しそうに満面の笑みを向けてくるスタルカに、カティは引き攣り気味の笑顔を返すしかなかった。


 お姉ちゃん。出来ることなら慣れたくないが、この先の人生では慣れていくしかない響きなのか。

 そんなことをぼんやりと思ってしまいながら。

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