大豪邸高松家
咲ちゃんは俺と勉強すると言ったが、結局金曜までずっと何かを質問してくることもなく、ただただならんで勉強しただけになった。
「良かったの?なにか聞きたかったりとか……」
「大丈夫です。先輩とお勉強するのが目的だったんですから!」
かなり満足そうにふんすと胸を張っている。一体俺の居た意味とは……
「ちなみに明日からの勉強場所って結局何処になったんだ?」
「あ、先輩高松ちゃんの連絡先知りませんもんね。高松ちゃんのお家ってことになりました。明日私が先輩の家に行くので、そこから一緒に行きましょう」
向こうも誰か確認しないといけないわけだし、まとめて言ったほうが手を煩わせなくて済むか。それに、一人であの豪邸に訪問するよりは気が楽だ。
「ありがとうな」
「なんでです?」
「気、使ってくれたんだろ?」
「……しりません!」
ぷいっと顔を背けるように首を振る。そのわかりやすい態度に、思わず口角が上がる。
「笑いましたね?」
気が付くと、咲ちゃんはじっとこちらを見つめる。ううん、なんだか居心地が悪い。それに、咲ちゃんは、拗ねたような表情で、「私は怒っています!」とアピール。
「……うん。わかった。ありがとうね」
頭を突き出してきていた咲ちゃんの頭を、ひまりにするのと同じように撫でた。さらさらな髪だ。やはり若干ひまりとは違う。
さわり心地良いなあ……ずっと撫でたくなる。その髪の手触りを堪能する。
「せ、先輩?いつまで撫でてるんです?」
「なんか今日さわり心地よくて……」
「普段と変わりませんよ!騙されませんからね!」
落ち着いて。とまた撫でると、「まったくもう」と諦めたようにうつむく。何人もいたら落ち着いて撫でることもできないし、今日のうちだな、と、前髪までしっかり撫でた後、「か、髪が!」と怒ってくる咲ちゃんと一緒の勉強会は終わった。
●●●
「でっか!」
見れば見るほど大きな建物が目の前に。翌日、休日だから午前からやることになった勉強会の会場に、三人で赴くと、ひまりがそう溢した。
「ひまり、行ったことあるんだろうが。というかこの前ハンバーグもらってきてたのはだこの誰だ?」
「あはは……でもさ、ここに来たら言いたくなるよ!何回見ても大きいなあ」
この中で一番多くここに来ているはずのひまりが一番目を輝かせて、その家の外壁を沿って歩く。なんでも、少し行ったところにある小道に門があるらしい。家の門って何だ?
「あ、先輩。あそこです」
「……おお、なるほど」
これは門だ。
もちろん、城のように巨大で、中に人が住める、みたいな物ではない。寺社等にあるものに近いだろうか。そのサイドには警備員が立っており、道に目を光らせている。
「警備員さーん!」
「おお、ひまりちゃんか」
ひまりは警備員のもとに走っていき、楽しそうに話し始める。もしかすると、何度行っているので覚えられているのかもしれない。咲ちゃんと帰りに勉強会していた昨日までの一週間は毎日ゆずちゃんと帰っていたみたいだし。
「今日は……ああ、勉強会の予定だね?後ろの人達がお兄さんと……ああ、咲ちゃんね」
咲ちゃんも覚えられていたのか、警備員さんは咲ちゃんの顔を見ると、ニコリと微笑む。
俺は初めて来る。警備員さんはちょっとこっちに、呼び出され、ボディーチェック。そして顔写真と見比べて、オッケー。
「和人くんだね?次回からは覚えておくよ」
優しい警備員さんは門を開ける。トランシーバーのようなものを通して連絡をし、ここで待っているよう伝えられ、門が閉じる。
足元の砂利と石の道の先には大きな建物。少し左を見ると、大きな日本庭園が広がっている。門からここまでに既に橋があり、その下には小川が流れていた。
「すっご……」
思わず口から出てしまう。びっくりするくらい立派だ。建物も、歴史を感じさせつつ、それでいて綺麗で豪華だ。
流石に落ち着かない俺たちがいろいろ目を向けていると、建物の中から、ゆずちゃんが顔を出す。
「皆さん。こんにちは。どうぞお入り下さい」
言われるがまま、ここだけでうちのリビングくらい大きそうな玄関に向かう。靴を脱ぎゆずちゃんを見る。和服である。
「なんで和服?」
「ああ、和人さんははじめてでしたね。うちは家族皆和服で過ごしてるんです。」
「ねね、お兄ちゃん。和服可愛くない?うちでもこれにしよーよ!」
「うちはこんな立派な和風建築じゃないから似合わないだろ」
学校で会ったときより落ち着いた様子のゆずちゃんは、口元を抑えながらくすくす笑う。咲ちゃんも一生懸命その派手でななく落ち着いているのに、随分立派に見える反物の柄を眺めているのだから、女子の憧れかなんかなのだろうか。
「みなさんがこの家に入ってくだされば、お仕立てしますよ?そうですね、咲さんは長女、私が次女、ひまりさんが三女。それで……先輩は私のお婿さんとか」
途中まで和やかだったムードが、最後の一言でピシっと固まってしまう。こ、怖い。
「高松ちゃん?私のお婿さんでもいいんじゃないですか?」
「お兄ちゃんは私のだよ?」
「確かにそれでも良いですけど、もしこの家に入るなら、宗家の者である私の婿にくるのが筋じゃないですか?」
なんかバチバチしてる。口出したら命はないと言われてるようで恐怖を覚える。
「お嬢様。どちらのお部屋にご案内いたしましょう」
そのとんでもないムードの中、それを断ち切るように声を掛けてきたのは、高級料亭の仲居さんの様な女性だった。
「ああ、私の部屋でやります。お昼はそうですね……十三時になったら、私が食堂にご案内しますので、それまでにお願いできますか?」
「承知いたしました。ではお客様がたも何かあればお呼び下さい」
いわゆる従者という人だろうか。行動が全て堂に入っていた。はじめて本物は見るかもしれない。
「じゃあ、私の部屋に行きましょうか。少し歩きますがそこは勘弁して下さい」
先を歩き出すゆずちゃんについていくように、左手側の通路を進んでいく。
渡り廊下だったり、部屋の外側の廊下だったり、庭を一望できるように進んでいく。池があったり、綺麗に選定された木々があったり、さながら文化遺産と行ったような様相だ。
「ここです」
渡り廊下を渡った先の、おそらく本館だろう建物よりはずいぶん小さいが、それでも大きな建物の、入り口代わりだろう障子を開ける。
「奥が和室、手前の部屋は洋間です」
玄関のようになった室内に、部屋が2つ。
どうやらこの離れは、まるまるすべてゆずちゃんの部屋らしい。
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