(生徒会長よりは)変じゃない生徒会


「ふふふ……あんなに可愛い妹ちゃんがいるなら紹介してくれればいいのに」

「会長には一番見せたくないんでね」


 そりゃあそうよね、と微笑んでいる十亀会長。見た目だけ見れば、それはそれは麗しいお嬢様だが、あくまで見た目だけである。内面はと言えば、かわいいなと思ったものには目がなく、ほしいなと思ったものはなんとしてでも手に入れるとんだわがままお嬢様である。

 

 俺も最初は生徒会なんて入りたくなかった。二年以降ならまだしも、うちの学校では基本二年以上の生徒が生徒会に入ることになっており、一年の分際でと、変に敵を作ってしまう可能性があるからである。

 しかしこの会長、ある日突然気に入ったとか言って、特別相談役とかいう役職を作ってしまい、そこに俺を推薦しやがったのだ。

 

 もちろん俺も抵抗した。だが、十亀会長の気に入ったやつ以外に素を見せない性格のせいで清楚で健気なお嬢様だと思ってる輩の「会長がこんなに言ってくれてるんだよ?」と、十亀会長を養護する声のほうが多かったのだ。明らかにおかしいだろ。

 それにこの会長も、「この役職は別にいつもいなくていいから!私が呼んだときだけでいいから!」と駄々をこね始めたので面倒くさいと思って、この役職に付いたわけだ。ちなみに、一年の通知表にはしっかり「生徒会特別相談役」という役職が記されている。大学入試で先方に確認とかされたらどうしよう……


「会長に目つけられたってことは、妹も生徒会入りですか?」

「流石にこれ以上増やすのはねえ……悩ましいわ……」


 俺はてっきりひまりも生徒会入り決定だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。たしかにな。これ以上生徒会に役職を作るならどんなのだよって話だし。顧問は顧問で、教師がいるし、幹事長とかか?……駄目だ。本当にこの人なら作りかねない。


「うーん、総代の子も気になるのよね……」

「あの子も入れちゃ駄目ですよ」

「まあそうでしょうね。あの子とも貴方、仲いいみたいですし」


 あはは、と笑いながら着々と片付けを進めていく。会長。……きっと俺たちの視線やらで気づいたんだろうけど、勘が良すぎやしないか?あの人。


「さあ!そのダンボールで片付け終わり!はしゃいだわけじゃないから片付けが楽でしたわね!」


 俺が持っているダンボールを倉庫に入れると、よし!と会長が声をあげる。


「体育館、もう閉めちゃうからね」

「待ってくださいよ。俺まだいるんですから」

「冗談ですよ。冗談!」


 うふふふふ、と上品に笑っているうちは美少女なのに、なんでこうも残念なんだ。ご両親は何とも思っていないのだろうか。と思いながらも外に出る。ドアに鍵を締め、そこに背を向ける。


「会長。まだやることあるんですか?」

「えっとねえ……ああ、生徒会室に行ってくれるかしら?中に行ったらあるはず!」

「ええ……帰りたいんすけど」

「良いんじゃないの?たまにしか来なくていいんだから。特別相談役さん?」


 からかうような笑みを浮かべる会長にデコピンを食らわせる。……あんたが作った役職だろ……という恨みももちろん込めて。


「じゃあ、俺は先に生徒会室に行っておきます」

「はい。みんなによろしくね」



 生徒会長が変だということは生徒会も変だ、と思う人が多いかもしれないが、そんなことはない。……というか、変だが会長ほど変ではない。


「こんにちは」

「あっはは!相談役じゃん!久しぶりだね!」


 入った瞬間目の前にいたのは、書紀の沢本さん。小柄だが、何でもスポーツなら何でもほど得意であるそうで、これと言った部活には入っていないが、よく部活の助っ人に入っているという噂を聞く。何より、コミュニケーション力が高く、物凄く話しやすい。この人がいるだけで、生徒会室は随分入りやすい。

 あと、先輩のはずが、呼び捨てまたはさん付けを強要された。なんでも先輩呼びは壁を感じるらしい。


「ああ、和人か……災難だな。まあ来てくれたほうが助かるが」


 次に口を開いたのは、大柄で無愛想にも見える大男の副会長。山口先輩。なんでも人を殺したとかいう噂があるが、全くの嘘。本人はとても優しい上に仕事ができる、俺の中の密かなあこがれでもある。


「うーん。じゃあこの仕事よろしく!」


 そうやって俺を見た瞬間笑顔で仕事を振ってきた人は、星野先輩。一番地味っぽい眼鏡をかけた、見た目文学少女である。……というか最初入ったときはその通り文学少女だったが、会計の仕事の多さに耐えかねたか、なんか吹っ切れて、突然こんな性格になった。


「しょうがないですね」


 俺は星野先輩から振られた分より多めに仕事の束を取って、自分の机に置く。「ありがどお゛ぉぉぉ!」と涙目になりながら星野先輩が仕事を続け、それを見た山口先輩が肩をすくめる。「泣きすぎー!」と体育会系のノリで沢本さんが星野先輩の肩を叩き、星野先輩は陽キャオーラに当てられ、「あ……すいません」と前の性格に戻ってしまう。

 ここに――


「ごめんなさい……少し時間が取られて……」

「もう!遅いよ!結梨花!」

「会長さん会計多すぎです!何したんです!?」

「ああ、十亀。決済をよろしく」

「まかせて!私がいるからには想像の1.3倍早く終わらせますよ!」

 

 十亀結梨花生徒会長。この5人で金章学園の生徒会執行部は成り立っている。

 


 十亀会長がやってきてからは本当に仕事が早く進み、一時間した頃には殆どの仕事がはけた。


「意外と早く終わったね」

「まあほとんどが入学式関連の書類だったんで、似たものとかもあったってのも一つのありがたかった点かもですね」


 拍子抜け、と言わんばかりの顔をする沢本さんにそう言うと、


「いやいや!今日は本当に和人くんがいてくれたからですよ!本当にありがとう!」


 と、令嬢に似合わない満面の笑みで会長が笑う。


「確かにそうかもな」

「あたしもなんかいつもよりは楽だったかも!ありがとう和人くん!いや、和人様!」


 それに続くようにメンバーも俺に感謝の言葉を投げかけてくる。正直まんざらではないが、恥ずかしい。


「ま、まあ偶にしか来ませんから、きちんと貢献しとこうと思って?」


 照れ隠しでそう言うと、それを目ざとく見つけた沢本さんが「照れ隠しかあ?このこの〜!」と、つんつん突っついてくる。


 これが生徒会のあまりに普遍的な日常だった。

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