第二章 騒がしい新しい春
新入生と学園生活
(学校の個性が溢れまくった)入学式
「新入生総代!川谷咲!」
大きなステージの上で堂々新入生代表の挨拶を読み上げた咲ちゃん。咲ちゃんはどうも前期入試で成績トップだったらしく、新入生総代に選ばれた。突然選ばれたときはパニックになっていたが、こうも堂々と言えているなら、上出来だと思う。
そこからは長い校長の話や、いかにもカリスマ性に満ち溢れた生徒会長の挨拶など、入学式らしい行事が続く。
そして、だいたい一旦終わりかな、そういった様な雰囲気が漂ってきて、ようやく終わりか、と新入生たちが少し弛緩した雰囲気になる頃、マイクから音声がながれる。
「これより、新入生代表と、在校生代表による短歌合評会を行います。在校生代表以外の在校生は解散!」
何も知らない新入生たちは、何が始まったのかと困惑している様子。それはそうだろう。これは、入試の最終問題にある、短歌の評価を成績優秀者に限ってだが、合評会を行うのだから。話を聞ける様な、この学校出身の知り合いがいるか、しっかりリサーチを欠かさなかった人だけが落ち着いている。
「では、これより、短歌合評会をはじめたいと思います。……最初は在校生代表から」
はい。としっかりした声で返事を返しているのは十亀会長。さっきの入学式でも挨拶をしていた、生徒会長である。なんでも才媛らしく、どっかの金持ちの令嬢だ。
「先程も挨拶をさせていただいた、私は十亀明菜と申します。生徒会長もしておりますから、よろしくおねがいします……早速ですが、三年代表として、私が詠ませていただいた短歌をご紹介します」
ぱっと前にプロジェクターから映し出された句は、誰が見ても教養ある、それでいて完成度の非常に高い一句だった。そのまま見れば、まるでプロが作ったと言っても遜色ないようなもの。それが十亀会長なのだ。
「じゃあ予め聞いていた評価を読み上げます。……えー、『非常に完成度の高い一句だと思います。特にこのまるで風に揺られた桜から花が舞っているような情景を思い起こさせる……』褒めることしか書いてないですね。次に行きましょう。『信じられない程の没入感を得られる作品だと思います。然しながら、風にまつわる季語に関しては、春風というのは普遍的であり、作品の魅力を高めるために推敲する余地があるのでは無いのでしょうか。』そうそうこういうの。ちなみに、これ書いたのは?」
ひまりが少し遠慮気味に手を挙げる。それを見てにやりとした十亀会長は「兄弟揃って鋭くて、私好みだわ!」といった。ひまりがビビっている。それはそうだろう。物腰柔らかな雰囲気をしていながら、さっきの言葉のときは目ギラギラだったもん。
「じゃあ、次は二年代表に移ります。……じゃあ、我が生徒会の特別相談役、高町君。宜しくおねがいします」
俺は面倒だなあ、と思いつつもステージに上る。あまり多くはない新入生たちを見渡せば、咲ちゃんも、ひまりも見える。
「あー……二年代表の高町和人です。さっき十亀会長が大仰な役職をつけていたと思いますが、会長が俺を生徒会に囲い込むために勝手に作った謎の役職なんで気にしないで下さい。要するに執行部の雑用です」
ここまで緊張した様子だった皆は、ここでようやく笑いに包まれた。
「はい。……もしかしたら妹より下手かもしれないですが、俺が詠んだのはこれです」
前に映し出されるのは、この前のお出かけの並木道のこと。暖かい陽気、桜、そして二人。あれより俺にとって詠むのに適した景色はないと思った。
見回して、咲ちゃんとひまりを見ると、驚いたような様子でこちらを見ていた。
「じゃあ、コレに関する評価も読み上げる。『この二人って誰ですか?彼女ですか?』違います。彼女なんかいねーよ。『桜道っていうのを外して別の言葉にして、他のところに季語を入れたら更に良いと思います』お、コレ良いな。検討します……まあ、こんなふうに、新入生代表二人も、緊張せずにな」
ありがとうございました、とステージから降りる。
「じゃあ総代の子!貴方のが代表一人目!」
新入生は、二人が選ばれ、代表として発表する。その内の一人は生徒会で選ぶのだが、もう一人は総代がするのが慣例だ。咲ちゃんは緊張した表情で、ステージに上っていく
「はい。総代として挨拶させていただきました川谷咲です。早速、私が詠んだものを御覧ください」
表示されたのは、勉強の情景だろうか。そして自分に、誰かが勉強を教えてくれる。そんな情景なんだけど、もしかして、この勉強教えてくれてる人って、俺のことかな。さっきから頬赤くしてこっち見てくるし。
手を振ってやると、へにゃ、とした笑みを浮かべて、ここがステージにの上だったことに気がついて更に赤くなっていた。……おいおい、何人か恋しちゃったんじゃないか?
「あ、あ、はい!つ、次は意見を読ませていただきます!『いい作品だと思います。新入生らしい勉強の歌ですね。ちなみにこの勉強教えてくれているのは彼氏ですか?』ち、違います!……なんかさっきから下世話な人多くないですか?次!『勉強の描写は良いのですが、それだけでは無機質なイメージがあるので、比喩を入れてみてはどうでしょう』ありがとうございます。参考になります」
居心地が悪いのか、すぐに「ありがとうございました!」と言って、慌ててステージを降りていく。席に戻った近くの子に、「かわいい」と言われているのが聞こえる。さすが天使。
「それでは次は、学力推薦優秀者より、高町ひまりさん。宜しくおねがいします」
はい。堂々としたその声はとても目立った。ステージに上り、口を開く前から人を引き寄せる独特の雰囲気をまとっている。
「先程二年の代表として登壇されていた高町和人先輩の妹の、高町ひまりといいます。皆さん宜しくおねがいします。……では、早速私が詠んだ短歌をお見せしたいと思います!」
口を開けば親しみやすい様な跳ねる声でどんどん進んでいく。相変わらず、こういったことに慣れているやつだ。
前に表示された短歌は、俺とよく似ていた情景だけれど、大切な人という一文があった。それにその影は一つしか無いような……
「はい。ではご意見を見ていきましょう!『素晴らしい情景です!高町先輩のと似てますが、同じ情景を詠んだんですか?』うーん、似てるけど違う情景なんですよ。というか、昔の話を詠んだので。『この大切な人って……!彼氏ですか?』この人後半になることもあるんだ。……ちなみにお兄ちゃ……兄です。」
お兄ちゃんって言いかけたな。視線を送ってやれば、すっと逸らす。……後でいじられるのは俺とお前だぞ。
ありがとうございました、と最後まできっちり挨拶したひまりは、ゆっくり、しっかりステージから降りていく。
「それでは、これで短歌合評会を終わります。新入生は各教室へ解散していいですよ」
その会長の声で、きちんと整列した一年生が体育館から出ていく。
列の中に二人を見つけて、目線を送ると、咲ちゃんは手を振ってくれ、ひまりは肩をすくめるようにして反応を返してくれた。
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