春休みに中学最後の思い出を2
公園は想像以上に綺麗に彩られていた。桜が咲き誇り、蝶が舞う。……入学式シーズンが桜のピークなんてよく言われるが、そのちょっと前が一番綺麗なんじゃないだろうか。
流石に満開とは行かず、蕾も多いこの地だが、満開の報道がまだであることも相まって、人は多くも、さしたる問題ではない程度であった。
「ちょっと並木を散歩してみようか」
三人で仲良く手を繋いだ俺達は、何組かの花見客もいる並木道に歩を進める。花びらがひらひら舞い、肩に乗る。暖かい陽気が地上を照らし、なんだかのんびりした気分になる。こういう時間が好きだ。
「いいところ、ですね」
「そうだな」
「いつもお花見してるところもいいけど、偶には違うところも良いね!」
少しの喧騒、風、一緒に景色を見れる人。これが揃えばそれだけで素晴らしい花見になると思う。
「うーん、これが落ち着く感じですか。いいですね」
「そう!私もこの落ち着く感じがすき!」
るんるん気分で楽しそうに歩みを進めていくひまり。人前ではきちんと繕っているが、俺の前や親の前、そして咲ちゃんの前では、子供の時から芯は変わらない、素の姿を見せる。天真爛漫という言葉が一番似合うと思う。
「川!見て!綺麗だねえ」
川に沿って作られている公園。並木も抜け、目の前に緩やかで雄大な川が流れる。
川を眺めるために設置されているベンチに座り、少し休憩する。さっきまで歩き続けていたため、少し疲れた。近くの自販機で水を2本買い、1本を咲ちゃんに、もう1本をひまりに渡す。
「ジュースが良かった!」とぶーぶー駄々をこねるひまりも、買いなおしてくる気がないことを悟ると、水を飲み始める。そしてそれを受け取り、俺も少し口に含んだ。
「え?ひまりちゃん、間接キスとか気にしないの?」
「え?普通気にするの?」
「俺にもわからん。俺たちは気にしたこと無いな」
咲ちゃんは驚いた顔をする。兄妹なんてそんなものだと思うけどな。ひまりも、別にそんなこと家族なんだし気にしないよ?と逆に驚いた様子。
「じゃあ先輩。……私のも、いります?」
「え?」
なんで?咲ちゃんは少し頬を赤くしながら、「この前妹として接してほしいって私が言ったから……!」目を泳がせて混乱している様子。恥ずかしいならしなければいいのに……
「それは咲ちゃんのだから」
「はいぃ……」
また恥ずかしがって小さくなってしまった。なんか今日暴走してない?別に何から何まで妹と同じようにするわけじゃないでしょ。
「咲ちゃん。君は俺の妹分だとしても、一人の後輩の女の子であることは変わらないんだ。あんまりそういうのをするのは……よくないだろ?気持ちは理解したから」
「はい……なんか焦ってたかもしれないです……」
恥ずかしそうに、咲ちゃんはそうつぶやく。
赤くなってうつむいた咲ちゃんが落ち着くのを待ちつつ、川を眺めていると、ひまりが口を開く。
「なんかさ、ここにいると、本当に小さい頃のこと思い出すよね」
「まあ、な」
俺たちは花見に出る度、ここよりはずっと小さい川をベンチに並んで眺めていた。そうして……思い出そうとすると、突然頬に柔らな物が当たる感覚がする。
「いっつもこうだね!私がお兄ちゃんの頬にキスするの!ありがとうって!」
そうだ。いつも、ずっと小さいときから、ひまりはずっと俺と一緒にいて……そうしてこういったときは必ず頬にキスをして、ありがとう。そう言う。だが……
「お前……もう高校生だろ?そろそろ、そうやって気軽に頬にキスなんてしないほうが良いんじゃないか?」
「良いの!だってお兄ちゃんだもん!」
ひまりは一切恥ずかしがっている様子はない。話が耳に入っていたのか、顔を上げた咲ちゃんは逆に頬がいまだ赤く染まっており、「なるほど、妹ってそこまでするんだ……」といった表情。違う。ひまりがおかしいだけだ。
「ま、そろそろ行くぞ!」
「あれ?もしかしてお兄ちゃん照れてる?妹のキスくらいで照れるなんて、シスコンかあー?」
にやにやしながら、このこのーと突っついてくるひまりを無視して、立ち上がる。
「さ、咲ちゃん行こうか。そろそろ昼の時間だしね」
「え、あ、はい」
「ちょっとまってー!置いてかないで!」
全く、これだから小さい頃から距離感が変わらない妹め……
「そうだ!何食べるか聞いてなかったな」
「そうだねえ、お兄ちゃんはどこか想定してた?」
行きとは違い、全員横に並んで広い遊歩道を歩く。気温も上がってきて、少し汗ばむほどだ。
「それなんですけど……今日はバイキング形式の所が良いんです。実は前々から行きたいと思ってたところが!」
「良いね!久しぶりかも!バイキング」
「そうだな。それならそれぞれ食べる分だけ食べられるし」
全員で同意して、咲ちゃんの案内についていく。こっちはすごいなあ。進んでいく中でも、殆どが普通の店舗ではなく、ビルの中に店舗が入っているものばかりで、やはりいつもの生活圏にはあまりない様な形態の店ばかりだ。
「あ、ここですね」
ビルの中に立ち止まり、階段を登る。咲ちゃんはいつもよりワクワクしたような足取りでとんとん進んでいく。その足取りはいつもと違うところへ来たという不安を感じさせず、少し頼もしく感じる。
そうこうしていると、目的の店についた。中に入ると、席が埋まるほどではないものの、多くの客で賑わっていた。
テーブルに案内され、説明を受ける。制限時間こそあるものの、用意してあるものなら何でも食べていいとのこと。用意されているものは、カレーから串カツ、サラダ、焼肉まで、沢山のジャンルのものが食べられるようだ。
「よし、楽しみだね!ひまりちゃん!」
「咲ちゃん……嬉しそうだね」
ひまりは咲ちゃんに驚いたような目を向ける。それはそうだろう。今咲ちゃんは
見たこと無いくらい目をキラキラさせているのだ。確かに、咲ちゃんが大食いであることはよく理解していたが、ここまでとは思わなかったのかもしれない。
「取ってきますね!」
「私もー」
二人は席を立ち、食べるものを取りに行く。俺は念の為荷物を見る。帰ってきたら、俺も取りに行く。
さて、俺とて成長期の男。結構食べる方だと思っている。特に肉が大好きだ。焼肉とか最高だな。さ、折角焼肉用の網もあるんだし、焼肉行くか。
そう思った俺が皿いっぱいの肉と、ご飯をよそって戻ると、既に大量に肉を焼きまくっている咲ちゃんがいた。
「お、お兄ちゃん!咲ちゃん、本気だあ……!」
ひまりが怯えながらそう言う。肉の脂からか、火力も上がり、可愛い顔してるのに、火を操る鬼神のようだ。
良い感じに焼けた肉を食べ、「おいしー!」と幸せそうな顔でご飯を頬張る咲ちゃんを見ると、まるで天使を見ているような気がしてくるのだが。
「……私達も食べよっか」
「そうだな」
俺たちも俺も肉を焼いて、食べ始める。だが、網の範囲が少ないため、ゆっくりだ。すると、その状況に気がついた咲ちゃんは、こっちに目を向ける。
「あ、先輩の分のお肉、焼ける場所ありませんでしたね!……じゃあー」
咲ちゃんは箸で良い焼き目が付いた肉を取り、俺の前に掲げた。
「あーん、ですよ!先輩!」
上機嫌に、何も考えてなさそうな顔をした咲ちゃんを見て、俺はため息を吐いて、その肉を口に入れた。大変美味しかった。
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