春休みに中学最後の思い出を1
「今日どっか遊びに行かないか?」
「本当ですか!?」
俺の春休みも始まり、咲ちゃんもうちに遊びに来た今日、俺は咲ちゃんを遊びに誘っていた。ちなみにひまりには既に話を通しており、「どうせすぐ行くっていうよ!」と、目をキラキラさせながら、今は自室で着替えている。
「ちなみにどことか……」
「うーん、今の所はあんまり考えていんだけど、一応高校上がるにあたって必要なものもあるだろ?それでも買いに行こうかなとは思ってる」
隣駅もいいですよね!ショッピングモールも!何ならこの前みたいに商店街も……と、鼻歌まで歌いながら上機嫌な咲ちゃんを眺める。嬉しそうだなあ。
ばたばた、と音がしてそちらを見れば、ひまりが階段を急いで降りてくる音だった。可愛らしい鞄をかけて、服も小綺麗にまとまっている。我が妹ながらかわいい。
咲ちゃんはかわいいと言っても、ふわふわとかふりふりのお嬢様みたいな可愛さがある。ほんの少し色の明るい髪もよく似合っているかわいさ。対してひまりは、清楚な感じに小綺麗にまとめつつ、かわいい小物や髪留めで可愛く見せる感じ。
「なんか……お前らってめっちゃかわいいな」
「か、可愛いですか。流石に照れます」
「そうでしょ?私はかわいいのだ!」
恥ずかしそうに顔を抑える咲ちゃんと、無い胸を張るひまりが対称的。……痛い!ひまりがジト目でこちらを見る。
「折角見直したのにさ、失礼なこと考えてたでしょ!……いいもーん!大きくなくたって。咲ちゃんも一緒だしね!」
「……うーん。なんのこと言ってるかわからないのにすごく悲しくなってきたな」
口には出してないのにずーん、と落ち込んだような様子の咲ちゃん。ぺたぺた胸のあたりを触っては、はあ、とため息を吐いているあたり、なんのことか理解している可能性もある。女の子って、すごく勘がいいからね……
「さ、そろそろ行こうか」
ぱっと時計を見ればもう10時を過ぎる頃。出来るだけ向こうで楽しむためには、少しでも早く出なきゃ。そう言えば、ひまりは「はーい!」と直ぐに玄関に直行してしまう。
「落ち着きのないやつだな……咲ちゃん、なんかいるものとかないか?」
「大丈夫です!」
咲ちゃんは笑顔で返答し、玄関に向かっていく。その軽い足取りに、この前商店街に出掛けたことを思い出す。
俺も戸締まりを確認すると、直ぐに靴を履き、家を出る。鍵を締め、すぐそこの道を見てみると、少し離れたところに、ひまりと咲ちゃんの姿があった。
「よし、最初は駅!」
「……なんか、先輩の足音もわかりやすいですね」
「え?」
咲ちゃんは面白そうにくすっと笑う。ひまりは「そうでしょー?」と威張っている。なんでもこの前俺が二人を足音で聞き分けられるようになったことを思い出し、じゃあ俺の足音も分かるか、という話だったらしい。
「全然特徴があるわけではないんですけど、聞いたら安心するんです」
「それ分かる!私もそれ感じる!」
女の子二人で俺のわからない話を話している……俺の足音が安心感?俺に安心感とか真逆のもののような気がするんだが?
駅について、この近くで一番栄えている都市行きの切符を買い、小一時間電車に揺られ、着いた所はまるで摩天楼。いつもの生活範囲では見ることもできないようなビルが乱立。
「う、うう、せんぱい、たすけてくだい」
「咲ちゃん人混み怖い感じ?」
少し心配そうに泣きそうな咲ちゃんと話すひまり。今は咲ちゃんは俺の袖をちょこんと握り、体を小さくしている。かわいい。
「人混みに酔ったりとかは無いんですけど、こんなに人がいるとはぐれそうで怖くて……」
うーん、たしかにここは都市だけあって、少し目を話した瞬間はぐれるとかもありそうな感じだな。ひまりは心配ないが、こうも怯えている咲ちゃんは少し心配だ。
「どうする?ひまりか俺と手、繋いどくか?」
俺がそう言うと、さっきまで袖を持っていた咲ちゃんは、ぱっと手を離し、手を繋いでくる。俺とかあ……ひまりとすると思ってた……
「ふふ……せんぱいの手、なんだか安心します」
ズキューン!と胸を射られたような衝撃!隣ではひまりも驚愕とこの可愛さにダウン寸前になっている。
やばい。この状態の咲ちゃんかわいすぎる。弱ってるからか、いつもは出さない様な甘い声で近くで囁かれた俺は胸の中からとてつもない庇護欲が湧き上がる。
「絶対俺が咲ちゃんを守るからな……!」
「私も……!不埒者から咲ちゃんを守る!」
その言葉を聞いた咲ちゃんは。へにゃ、と可愛らしい笑みを浮かべた。やばい!兄妹揃って落とされる……!
「と、とりあえず、最初は落ちつけるところにでも行こうか」
流石にずっと咲ちゃんがこのままではいけない。とりあえず近場にあるチェーンのカフェに入る。
「なんでも頼んでいいからな!俺が奢ってやる!」
そう言うと、ひまりも咲ちゃんも少し遠慮する素振りのうち、おずおずとほしいメニューを店員さんに伝える。俺も欲しいものを頼む。そこそこするけど、別に問題はない範疇。
「あ゛ー……だめえ……!恥ずかしすぎる……!」
「えー?かわいかったよ?さっきの弱った咲ちゃん」
注文したものを持って、席に戻ると、さっきよりは人の少ない環境で落ち着いたのであろう咲ちゃんが顔を手で覆っていた。所々からみえる顔は真っ赤だ。
「大丈夫だぞ。あまりの可愛さに兄妹揃って落とされる所だった」
俺がそう言って後ろから声を掛けると、咲ちゃんはついに頭を抱えて突っ伏してしまった。
「そういうことじゃなくってー!」
恥ずかしそうなその声が、少しの喧騒とともに、ボックス席に木霊した。
しばらくして、咲ちゃんもしっかりと落ち着き、ドリンクを少しずつ飲み始めた時、ひまりが声を上げる。
「ちなみにどこに行くとか決まってる?」
「こっちは雑貨屋とかもいっぱいあるからなあ。ちなみにどこ行きたいとかある?」
「公園とかどうでしょう?」
咲ちゃんがそう言う。確かに、それも良いかもしれない。季節もちょうどよく、桜がいい感じに咲き始めているだろう。本格的な花見シーズン程の景色は見られないとは思うが、人もその分少ないだろうし。
でも、ひまりがどうだろう……ひまりはもっとキラキラしたところが好きそうだな、と、そう思っていると、ひまりは存外明るい声を出す。
「それ良いね!よし!お昼までお花見だあ!」
「おう。……ひまり、意外だなあ……」
「え?私お花見好きだよ?毎年お兄ちゃんと行ってるじゃん」
確かに俺達はかなり昔から二人で花見に行っていた。今のように家に親がいないときだけではなく、まだこちらで勤務していたときも、面倒くさがる二人をおいて、ふたりきりで花見に行ったものだ。
だが、最近はもうひまりも大きくなっていて、花見などなんとなく毎年行っている義理で行ってくれているものと思っていた。
「私、お兄ちゃんと花見するの大好きだから!」
屈託のない笑顔でそういうひまりに、思わず涙がほろり。
「そんなに楽しみにしてくれてたんだなあ……よし!じゃあ、早速行こうか!」
全員のカップにもう入っていないことことを確認して、立ち上がる。
外に出ると春の陽気が体を包み、花見日和である。とっとと先を急ぐ妹を呼び止めつつ、隣りにいる咲ちゃんの手を握る。
「……え?」
「ん、嫌だった?」
「いえ……ありがとうございます!お兄さん!」
そこでその呼び方で来るかあ……ずるいなあ……
最近はあまりされていないその呼び方に頬が熱くなる感覚を覚え、そっと目をそらす。
「お兄ちゃん、なんで顔赤くなってるの?……ってあー!手繋いでるー!もう咲ちゃん大丈夫なのに!私も!」
戻ってきたひまりがぱっと反対側の手も握る。どっち側にも逃げ場がなくなった俺が、もう一度咲ちゃんの方に顔を向けると、少し意地悪な顔で言う。
「照れてる先輩って、可愛いですね!」
「弱ってる咲ちゃんもかわいかったよ」
反撃にそう言ってやれば、咲ちゃんは少し顔を赤くして、「そ、それは忘れて下さい……!」と頬を膨らます。
それは嫌かな、そう言うと、ひまりに引っ張られる。
「二人でイチャイチャしてないで!早く行こ!早く行かなきゃ、時間がー!」
まだ時間はあるというのに、焦って子供のように見えるひまりを見て、なんとなく目を合わせた俺と咲ちゃんは、一つ肩をすくめ、ずっと引っ張ってくるひまりに引かれるように歩き出した。
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