第55話 幼き生き神と贄 《四条灯視点》⑦
「生き神様から、儀式開始の合図ありました!」
「映像、画面に流します!」
「機材に異常なし。データに注目!」
ところ狭しと大きな機材やパソコンが置かれた室内に、スタッフさん達の声が飛び交った。
「(ここで、母様の儀式が見られるのね……)」
「(はい。ここで、神の力をお使いになると、通信障害が起こるらしいので、お静かになさっていてくださいね?)」
そんな緊張感漂う状況の中、姿の見えなくなる術をかけてもらった私とキーちゃんはヒソヒソと話し合った。
生き神の資格を喪失してしまったのか確かめたい私は、母様と贄様の儀式を実際に見たいと、またも精霊達に頼み込んだ。
例え術を使おうと、母様の目の前にいたら流石に気付かれてしまうだろう。
スタッフが儀式による地質状況変化のデータを取っているので、映像だけなら社の事務室でも確認出来るのではと、お目付け役のキーちゃんと共に事務室の一角に隠れる事になったのだった……。
「(こんなのバレたら生き神様に怒られてしまいますぅ……)」
「(大丈夫よ? キーちゃん、その時は私が将来の勉強の為に無理に頼んだと言うから)」
半泣きのキーちゃんを安心させるように宥めながら、事務室内の大きな画面を見遣ると、そこには洞窟の奥の広い空間に、しつらえられた寝具の上で、生まれたままの姿の男女が抱き合っている姿が映し出されていた。
その男女はいつにも増してお美しい母様、贄様で、お二人は見つめ合い、顔を近付け……。
「(あっ)」
唇を重ね合わせる様子に、小さく声を上げてしまった。
これ、私が真人としてしまった「ちゅー」だわ。
やっぱり、これが儀式なの?
胸がざわめく中、スタッフさん達の方を見遣ると、皆持ち場についたまま静かに儀式の様子を見守っていた。
パソコンのデータを確認しているスタッフさん一人の後ろに立つと、時間経過と共に、赤い線が、ゼロの位置に平行に推移していた。
神の力が放出される時には特有の電波が発生するらしく、その電波を感知すると、縦方向にデータがとれるらしいけど、まだ神の力を感知してはいないようね……。
チュッ。チュウウッ。
映像のみの画像だけれど、そんな音が聞こえそうなぐらい、母様と贄様は、何度も何度も口を合わせ……、やがて贄様は、母様の体中に「ちゅー」をしたけれど、スタッフさんの反応やデータに変化はなかった。
「(あれ? キーちゃん、「ちゅー」をしても、儀式にはならないのかしら?)」
「(え、ええ。まぁ、「ちゅー」だけでは、儀式にはなりませぬな……)」
「(……!! そうなのね!」
よ、よかった! よかったわぁっっ……!!!✨✨
私の疑問へのキーちゃんの答えに、今までの心配事が全て解決され、私はヘナヘナとその場に座り込んだ。
「(次代生き神様! 大丈夫でございますかっ? ああ、こんな場面を、まだお小さい次代生き神様にお見せしてしまって……)」
「(ああ。別にそれでショックを受けている訳ではないのよ? キーちゃん)」
苦笑いしながら、キーちゃんを気遣う余裕さえ出て来た頃、画面には、贄様が母様の腰を抱え、体全体をくっつけるような仕草をし始め……。
「神の力を感知し始めました!」
「地質の強度にごく小さな変化が見られます!」
「「了解!」」
「「(!!)」」
スタッフさん全体に、一気に緊迫した空気が走った。
贄様と母様が体をくっつけたり離したりする内に、パソコンのデータでは、ゼロからプラス方向へ赤い線が急激に上昇していき……。
お二人の身体が一際大きく跳ねた時、母様から赤い糸のような光が沢山伸び、お二人の姿はそれに包まれ、見えなくなった。
「(か、母様っ?! 贄様っ?!)」
ブワァッ!
私が目を見張る中、その光は洞窟の上方へ、一気に放出され、画面が光で一瞬何も見えなくなった。
そして、数瞬後、光が消え──。
「! 母様?!」
病人のように寝具に身を横たえた母様と心配げな表情の贄様が映り、すぐに映像は途切れた。
「これにより、儀式終了となります!」
「今回、神の力感知確認とれました!」
「同時に地質強度が1.2倍になっています! 」
「今回かなりいいデータ取れましたね?今、各方面に送ります!」
儀式が終わり、興奮と安堵の雰囲気に包まれる中、私は病人のような母様の最後の姿が目に焼き付いて、心配で堪らなかった。
「(か、母様が、死んでしまったらどうしよう……)」
涙を零す私に、キーちゃんは微笑んだ。
「(生き神様は大丈夫でございますよ?儀式の後は消耗されますが、すぐに神の力で回復しますから)」
「(そ、そうなの……? それならよかったけれど、儀式って本当に大変なのね……)」
キーちゃんの言葉にいくらかホッとしたものの、まだドキドキしている胸を押さえて思った。
次代生き神の資格は喪失していなかったみたいで本当によかったけれど、私は将来、あんなすごい儀式を出来るのかしら?
贄の役の男性と……。
と、母様と贄様のように未来の自分に寄り添う男性を思い浮かべた時、不意に「ちゅー」をして来た真人のいたずらっぽい笑顔が重なって、ブンブンと首を振った。
ない! それだけは絶対ないわっ!///
もうっ! 将来の生き神様にこんな死にそうな思いをさせるなんて、あの子ったら罰が当たるわよっ!!
私は真人への怒りに拳を握り締めたのだけど、彼への罰は意外と早く当たったのだった……。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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