第50話 幼き生き神と贄 《四条灯視点》②
儀式一日目――。
母様が清めの湯に入られている間、部屋で暇な私はキーちゃん、ナーちゃんと話をしていた。
「キーちゃん、ナーちゃん。儀式の間は、神社に出店が出てお菓子や甘酒が振る舞われるって本当? 人もいっぱい来るの?」
スタッフの人から聞いた話を興味津々に尋ねてみると、キーちゃんは首を振った。
「いえいえ。次代生き神様。新しい贄を迎えて初めの儀式の時はそうですが、悪天候や災害の前に行う儀式では、その様な催し物はされませぬ。危ないですからの……」
「キーの言う通りです。次代生き神様。毎年正月には同じような催し物が行われ、賑わいますが、今の時期は暑いですし、参拝客は少ないですの。時折、遊びに来て拝殿にイタズラをする子供がおりますので、見つけた時は我らが脅かしてやりますわ」
そう言って、ナーちゃんがニヤリと笑って指を鳴らすと、バチッと空気中に火花が散った。
「まぁっ。そんな子がいるのね! 二人共悪い子にすぐに天罰を与えていてすごいわ」
私は二人に感嘆の声を上げつつ、この屋敷を降りてすぐの神社とはどのようなところなのだろうと興味が湧いた。
三日間の退屈な時間をもしかしたら素敵な時間に変えられるかもしれない!
顔を輝かせると、私はキーちゃん、ナーちゃんに思い切って頼んでみることにした。
「キーちゃん、ナーちゃん。三日間、誰も相手をしてくれないのはとても辛いわ。せめて、屋敷の中を自由に歩いて過ごしたいから、以前、贄様にしていたように、姿の見えなくなる術を私にかけてくれないかしら?」
「「ええっ! 次代生き神様、なりませぬ。我々が生き神様に怒られてしまいます!」」
目を剥いて断る精霊達に、作戦のある私は目を伏せて告げた。
「ええと……。こんな事言いたくないんだけど、この前……、キーちゃん、ナーちゃん、お客様用のえびせんべいと和菓子を厨房でつまみ食いしているのを見ちゃったのよね」
「「……!!||||||||」」
青褪める精霊達に私はニヤリと笑みを浮かべ、追い込む。
「もちろん、お母様には秘密にしておくわ! この事も黙ってるからっ。ねっ。だから、お願いっ!!」
手を合わせて頼み込むとキーちゃん、ナーちゃんは弱り切ったように顔を見合わせた。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「では、あかり。部屋でこの間教えた気の扱い方をおさらいして大人しくしていてね。厨房のスタッフは残っているから、何かあったら彼女に言うように!」
「はい。わかりました。お母様、行ってらっしゃいませ」
「次代生き神様、失礼致します」
ナーちゃんと共に姿を母様に、正座に三つ指をついてお見送りした後、残った困ったような顔のキーちゃんに、私は期待の眼差しを向けた。
「……💦」
「……✨✨」
「せいっ!」
ポワン!
「わぁっ!!」
意を決してキーちゃんがかけ声をかけるとシャボン玉のような膜が私を包んだ。
「(次代生き神様、その膜がある間は人には見えませぬが、大声を出すと破れてしまいます。くれぐれも外へは行かぬようお願い致しますぞ?)」
「分かったわ。もちろん外へは行かないわ! (社の外へはね……。神社ならギリギリ大丈夫よね?)」
小声で注意され、私は大きく頷くと、キーちゃんは私に暇を告げ、ナーちゃんから10数秒程遅れて姿を消したのだった……。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
タタッ……。
「あと二日分、腕によりをかけてご馳走を作らねば!」
「!」
「ふんふふ〜ん♪」
その後部屋を出ると、廊下で食べ終えた食器を運んでいる厨房のスタッフさんと鉢合わせになり、ドキッとしたけれど、彼女は私に気付かず、鼻歌を歌って行ってしまった。
「ホッ」
キーちゃんの術で、本当に私の姿は見えなくなっているみたい。
私は安心すると、玄関から外へ出て、神社へと向かった。
「外へ出るの、初めて! 太陽の光が眩しいわ! お屋敷って、こんなに沢山の木々に囲まれていたのね」
屋敷の外へ出て降り注ぐ陽の光を受け、木々の間の道を走り抜けるという初めての体験に私の胸は躍っていた。
キーちゃん、ナーちゃんを脅すようにして術をかけて貰って、決まりを破って外へ出た事に少し罪悪感はあったけれど……。
少し、神社へ行くだけだから。
ホラ、キーちゃん、ナーちゃんはしばらく儀式で忙しいからその間二人に代わって神社の見回りをしなきゃ。
心の中でそんな言い訳をしながら、拝殿近くまで駆け下りていくと……。
「やったぁ! 俺の勝ちぃっ!」
「「また、真人の勝ちかぁ……」」
「!!」
子供の声がして、反射的に拝殿の裏に隠れてしまったけど、私の姿は見えないのだった。
恐る恐る近付いて行くと、拝殿の前で飛び跳ねて喜んで喜んでいる子供がいて、拝殿から鳥居に続く階段から、がっかりした様子の二人の子供達が上がって来た。
「真人には、絶対ジャンケンで勝てねーんだよなぁ」
「何でだろうな?」
「へへん。俺はジャンケンの神に愛されてんのかもな〜」
「………」
私がじっと観察したところ、彼らは髪が短く、私と同じ位の背丈で、小さいながらガッチリした体型で、仕草も荒っぽく、私とはどことなく違う生き物のような気がした。
もしかして、これが「男の子」という奴かしら?
菊婆によると、男の子は碌でもない事をするのよね……?
私は警戒を強め、彼らを観察する事にした。
「あっ。もうこんな時間だ。真人、俺もう帰るわ」
「俺も! 親に宿題やれって怒られてたんだわ。じゃ、またな。真人!」
「えっ」
男の子の中の一人が、腕時計を見て、驚いたような声を上げ、もう一人の男の子も続いて、ジャンケンに勝った男の子に手を振り、二人は鳥居への階段を駆け下りて行った。
「あ、お前達っ……。くそっ」
男の子(確か「真人」と呼びれていた)は、一人残され、下の階段を見遣り、悔しそうな表情で地面を蹴った。
「生き神の儀式の間は、家に帰っても一人でクソつまんねーんだよな……。いっそ、儀式が失敗するように呪ったるか!」
……!! ||||||||
吐き捨てるようにそう言った少年の言葉に動揺して私は思わず大声で叫んでしまった。
「なんて恐ろしい事をっ……!! 母様と贄様を呪わないでーーっっ!!」
フルンッ……。パチンッ!!
その途端、私を覆っていた膜が大きく揺らぎ、はじけ……。
「えっ!? うわわっ……」
その男の子は、私と目が合い、驚いた途端バランスを崩し……。
ガタガタガターン!!
「きゃあああっっ!! 」
私が驚いて悲鳴を上げる中、その男の子は真っ逆さまに階段を落ちて行ったのだった……。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます