第51話 幼き生き神と贄 《四条灯視点》③
ガタガタガターン!!
「きゃあああっっ!! 」
目の前で、その男の子が階段から落ちて行くのを見て、私は悲鳴を上げた。
見下ろすと、その子は10段ほど下の階段の辺りで倒れていて、私は急いで階段を駆け下り、近付いた。
「だ、大丈夫?」
膝から腿にかけて肉が見える程ひどい擦り傷を負ったその子は、意識を失っているようで、私は動転してしまった。
「ど、どうしようっ! わ、私が声をかけたからっ……|||||||| と、とにかく手当てしなくちゃっ」
母様に最近教わった術を必死に思い出す。
「ええと……。確か、最初にこの子の気を感じ取って……」
そっと男の子の頭に手を触れ、子供にしてはかなり強いと思われる気を調べると、怪我をしている足の部分以外には乱れがなかった。
「他には大きな外傷がないみたいね。よかった……」
ホッと胸を撫で下ろすと、今度は腿から膝にかけてのひどい傷の部分に手を当て変えた。
「えいっ……!」
その子の生命力を高めるよう念を込めると……。
グオオッ……!
「!」
私の中の神の力が一気にその子に注がれるのを感じた。
私の手と触れている部分が熱くなると同時に傷は少しずつ塞がり、怪我の範囲が小さくなっていき……、最終的に治りかけの傷程度になった時……。
「??」
男の子の目がパッチリと開いて、私を不思議そうに見上げ、体を起こした。
「お前……誰だ? あれ?俺は、一体……」
「あっ。ええと……」
どうしよう?
男の子の怪我を大分治せたのはよかったけれど、キーちゃんの術が切れているので、次期生き神の私の姿を社以外の人に見られてしまった。上手く誤魔化して早くこの場を去らなくちゃ。
「あなた、突然階段から落ちたから、心配で見に来たんだけど、大丈夫?」
取り敢えず怪我の具合を私が聞くと、男の子は、立ち上がり、足の傷を見て、顔を顰めながら答える。
「いてて……。まぁ、擦り傷ぐらいしょっちゅうだし大丈夫だ。ってかお前は?」
「わ、私はただの通りがかりの一般島民よ? 元気ならよかった。それじゃ、さよなら!」
再度聞かれ、早口でそう答え、踵を返して逃げようとすると……。
「待てよ!」
ガシッ!
「うっ」
後ろから腕を掴まれ、私は固まり恐る恐る振り向くと、男の子は訝しげな目で私を見た。
「島で見ない顔だな。よそもんの女は、自分の名前もしゃべれねーのかぁ? そんなんじゃ、許嫁も見つかんねーぞ?」
「ムッ。私の名前は四条灯! そう言う失礼なあなたは誰なの!」
いきなり偉そうな物言いをされ、反射的にそう返してしまった。
「おう、俺の名前は葛城真人。ここの社の責任者のクソババアの孫だぜ!」
「……!!」
元気そうな男の子の笑顔を前に、私は目を見張った。
この子が菊婆の孫!!
イタズラをしたり、他の子を泣かせたり、無茶をして怪我をしたり、嫁の来手がないという、とんでもない男の子……!!
っていうか、思わず名乗ってしまったけれど、どうしよう?
菊婆の孫なら、私の事は外の人にはバレなさそうで安心だけど、逆に菊婆から母様に私が屋敷を抜け出した事がバレて怒られるかも……。
私は頭を抱えた末、男の子に真剣な顔で頼み込んだ。
「あの……、私とここで会った事は他の誰にも内緒にしてくれない?」
「おう。いいぜ!俺と遊んでくれたらな?」
男の子は気持ちのいい笑顔で返事をしてくれたけど、私の腕を離してくれる事はなかった。
「あかりって言ったなよな。グリコじゃんけんしようぜいっ!」
「ええっ……!?💦 ちょっと、待っ……きゃあぁっ。引っ張って行かないで〜!」
ダダダッ!!
強引にそのまま鳥居の下まで連れて行かれ、男の子に「グリコじゃんけん」なる遊びの説明をされた。
「知らねーか?グリコじゃんけん。
ルールは簡単だ。じゃんけんをして、勝った方が、勝ったじゃんけんの手の分だけ階段を上がっていける。
グーは「グリコ」で3段分、チョキは「チヨコレイト」で6段分、パーは「パイナツプル」で6段分上がれる事になるな。
一番上まで辿り着いた奴が勝ちだ。
分かったか?」
「ふんふん。多分分かったわ。その遊びをやったら私の事は内緒にしてくれるのね?」
私はコクコクと頷いた。
要はじゃんけんをして勝った方が階段を上がれて、一番上まで上がった勝ちなのよね?
じゃんけんなら贄様とやった事がある。
私は次代生き神だから、じゃんけんは、母様以外には負けない。早く勝って、母様達が戻るまでに屋敷に戻らなくちゃ!
「じゃあ、早速やろうぜ! (ふふっ。俺のじゃんけんの強さを見せつけてやんぜ!)行くぞ〜!」
男の子は不敵な笑みを浮かべて拳を握ったけれど……。
「「ジャンケンポン!!✋️(✊️)」」
私達がそれぞれのじゃんけんの手を繰り出すと、彼は目を見開いた……!
✽
「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト! よし、一番上まで来たわよ〜っっ!!
私の勝ちでいいわよね〜っっ!!」
再び拝殿に上がって来た私は遥か下に小さく見える男の子に大声で叫んだ。
あれからじゃんけんを繰り返す事幾度か……。私が全勝して、最後は男の子との距離が離れ過ぎて、じゃんけんの手を読むのも一苦労の視力検査状態になりながらここまで来たのだった。
「な、何ぃっ?! 一番上まで行っただとぉっ!? ちょっと待てぇ!!」
ズダダダダッ!!
男の子が鳥居の方から、駆け上がって来た。
「ハァハァッ! そ、そんなバカな……! じゃんけん王と言われた俺が一度も勝てないなんて! お前、なんかズルしたろ!」
息を切らし、顔を真っ赤にして言いがかりをつけてくる男の子に私は思い切り顔を顰めた。
「そんな事するわけないでしょ!」
「くっそ〜! あかり、もう一回勝負だ!」
「ええ〜? じゃあ、あと一回だけね?」
納得がいかない様子の男の子に、私はため息をつきながら了承したのだけど……。
✽
10分後──。
「また一番上まで来たわよ〜! ねぇ! 私、もう帰っていい〜?」
「くっそおぉっ!!」
またもじゃんけん全勝し、拝殿に着いた私は階段の下にいる男の子に大声で呼びかけると、彼はジャンプをして悔しがっていた。
すぐにまた上がって来た男の子は、首を捻ってブツブツ言っていた。
「何で勝てねーんだ。途中ズルして後出ししようとしたのまで、負けるって……」
ズルしようとしていたのは自分じゃないの! 私は男の子に冷ややかな目を向けた。
「くそ〜。いい気になるなよ? バッタ取り競争なら負けねーんだからな。俺は、1日でバッタを45匹捕まえた事もあるんだぞ? どうだ、凄いだろ〜」
両手を腰に当て、威張り始める男の子に、私はブンブンと首を振った。
「そんなのちっとも凄くないわ! 小さい生き物をイタズラに捕まえるなんてよくないわよ!」
男の子に乱暴に扱われるバッタさんを想像して、胸が痛んだ私がそう言い返すと、男の子は悔しそうな顔で悪態をついてきた。
「くっ……! ブスッ!」
……!!
その言葉を聞いてカアッと頭に血が上った私はすぐに言い返した。
「ブスじゃないわ! いつも、周りの人は私を母様にそっくりと言うもの! 母様はとてもお美しい方よ。あなたは嘘つきだわっ……!」
私だけでなく、母様をバカにされたようで、許せなくて、詰め寄る私を、男の子はじーっと見詰めると、耳まで真っ赤になった。
「ぐっ……。確かによく見たら、めちゃくちゃ可愛……//// いや、そんな訳っ……」
??
不可解な反応をする彼に私が怪訝な顔をしていると……。
「おお、お前なんかスカ◯ンタンだっ!! こ、これで勝ったと思うなよっ!!じゃ、じゃあ、またなっ!」
「え。あ、ちょっと……」
ズダダダダッ!!
男の子は一気にそう言うと、階段を駆け下りて行った。
「な、何? スカ◯ンタンって……? 分からないけど、何だかとっても腹の立つ言葉だわ……!
治さなきゃよかった!」
残された私は、怒りにぷるぷる体を震わせながら、やっぱり男の子は碌でもないものだと結論づけたのだった……。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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