第47話 白き生き物の導き

「贄様、お早くっ!! 今は私に反抗の意思はありませんから、ナイフをしまって全力で走って下さい!」

「くっ……。分かった!」


 社を裏切り、上倉と通じていた保坂さんだが、上倉が倒れてからは、何故か急にあかりの救出に協力的になり、俺は先導する彼女に急き立てられ、俺はナイフを胸ポケットにしまい社の屋敷まで全力疾走した。


 あかり……! どうか、無事でいてくれ!


 祈るように彼女の無事を願いながら、社の門が見えてくるところまで来ると……。


 ヒュンッ!


「!!」


 何か白い小さな影が俺の前を過ぎり、俺の前で円を描くように旋回した。


「で……伝七郎?!」

「鳩……ですか?」


「クルックー♪」


 伝七郎は白い小さな翼を翻し、俺と保坂さんの前で、嬉しそうに一鳴きすると、屋敷までひとっ飛びし、玄関の戸をくちばしでコツコツと叩いた。


 カラカラ……!

 パタパタ……。


 保坂さんが戸を開けた途端、伝七郎は屋敷の中に入り……。


「クルックー! クルックー!」


 地下への階段の手前で降り立ち、こちらを急かすように、翼を何度か羽ばたかせた。


「何か私達を案内しようとしているみたいですね?」

「あ、ああ……。」


 保坂さんに言われ、俺も頷く。


 敵方に矢を射られ、一時は瀕死の重傷を負ったという伝七郎だが、あかりに治療されて、今はトシのところに戻っている筈だった。


 それが、またこっちに戻って来て、俺を先導しようとする意思を見せているのは、恩人のあかりの場所を教えようとしているから……? というのは、この切羽詰まった状況で、藁にも縋る思いで、都合のよいように解釈してしまっているからだろうか。


 しかし、どの道、屋敷の全ての部屋を探すつもりだったんだ。


「保坂さん、すぐに事務所に鍵を取りに行って来てくれ。伝七郎の後を追う!」


「はい!」


         ✽

 パタパタ……。

「クルックー!」


 バタバタ……!


 部屋の鍵を手にした保坂さんと共に、俺は低空飛行をする伝七郎を追いかけた。


「地下にも部屋があるのか?」

「ええ。以前儀式を行なった、半地下の部屋に加え、更に下に三部屋……。昔は、罪を犯した社の者や、込み入った事情のある方がこちらで過ごされていた場所だとか……」 

「……!」


 俺の問いに保坂さんは沈鬱な顔で答えた。


 その昔、双子の生き神の弟の方は、生まれてからずっと地下牢で生活していたという。あかりを、そんないわく付きの恐ろしい場所に監禁しているのだとしたら、上倉と冬馬の奴、どんだけ趣味が悪いんだ……!


 怒りに拳を握り締め、以前の儀式の間を通り過ぎ、更に下に続く階段を駆け下りると、重そうな鉄の扉のある部屋が三つある場所に行き着き……。


 トンッ。

「クルックー! クルックー!!」


 伝七郎は、その内一番奥の手前のドアノブに止まり、俺達の方を振り返ると、一際高く鳴いた。


「贄様……!」

「ああ。あの部屋の鍵を頼む!」


 俺達が駆けつけると伝七郎は、ドアノブから、床に降り立ち、すぐに場所を開けてくれた。


『……。……。……!』💥💥

『……めてっ……!! ……!!』


「「!!」」


 扉の前に立つと、部屋の中から微かに冬馬の怒号とあかりの悲鳴のような声が聞こえて来た。


「あかりっ!! 早く開けてくれ! 保坂さん!」

「はいっ!」


 気が気でない俺が叫ぶと、保坂さんはすぐに該当する鍵をドアノブの鍵穴に差し込んだ。


 ガチャガチャッ! キィッ!


「あかりっ……!」

「生き神様っ……!」


 そして、重い扉を開け、中に飛び入ると……。


 ドガッ! ガッ! ゴッ!


「アバズレ生き神がぁっ……! この僕に泣いて詫びろよっ!! オラァ!」


「いやぁっ!! 痛いっ!! やめてぇっ!!」


 !!!! |||||||| 


 キーとナーは重なるように倒れ、その近くに床にうつぶせに蹲り、泣き叫ぶあかりに、後ろから容赦無く蹴りを入れる冬馬。




 部屋の中で地獄のような光景が広がり、俺は目の前が怒りで真っ赤に染まった。


 ダダッ!

「こんのクソ野郎っ!!」

「なっ……、おまっ、まひっ……?ぐふっ!」

 ガシッ! ガターン!!


「贄様っ!!」


 考えるより体が先に動き、気付いたら冬馬をあかりから引き剥がし、押し倒していた。


「あかりにっ! 何をやってやがんだぁっっ!?」

 ガッ!! ドガッ!!

「ぐっ! ぐふっ!」


 馬乗りになって怒りのままに、奴を殴り付ける。

「そんなに暴力振るいたかったら……」

 そして俺は渾身の力を膝に込め……!


「自分の股間でも蹴ってろよ!!」

 ドゴム!!!!

「ごっぎゃあぁぁっっ!!!」


 奴の股間にクリティカルヒットを加えると、奴は断末魔のような悲鳴を上げた。


「いでー!💥 いでー!!💥」


「けっ。しばらく、生き地獄でも味わってろ!」


 転げ回っている奴に吐き捨てるように言うと、俺はあかりの元へ急ぐ。


「あかりっ! あかり! 大丈夫かっ?」


「ううっ……」

「っ……!」


 急ぎ、抱き起こしたあかりは、奴の卑劣な暴力によりぐったりしていて、不甲斐なかったせいで、彼女を守れなかった自分を強く責めた。


「……ひと……? ううん……」

「あかりっ! あかりぃっ!」


 あかりは弱々しく目を開け、俺の姿を視界にいれるとまたすぐに意識を失ってしまった。

 必死に名を呼んでいると、後ろから聞き慣れた子供の金切り声が響いた。


「「生き神様ぁっ!!」」


「! キー! ナー!」


「正確な位置は分かりかねましたが、精霊様方に呼びかけてお起こししました」


 そう説明する保坂さんの方から、キーとナーがこちらに向かって飛んで来る。


「そのお姿は、どうなされたのですかっ?」

「我々がお守りしていた筈が何故このようなっ?!」


 半狂乱で、必死に取り縋るキーとナーに、俺は苦々しい思いで、痛さに呻いている冬馬を指差して説明した。


「冬馬に暴力を振るわれた! お前達は今まで上倉に操られていて、俺もさっきまで、社を裏切った保坂さんに眠らされていたんだ」


「「な、なんと……! 我々はなんたる失態を犯してしまったのだ……!||||||||」」


 衝撃を受ける精霊達に、俺は聞いた。


「詳細と反省は後だ。あかりは大丈夫か?」


「う、ううむ……。生き神様のお怪我については、幸い、重傷はなく、神の力で修復中であるようじゃ……」


「じゃ、じゃあ、すぐに回復できるんだな?」


 キーの言葉に、安心した俺だが……。


「「しかし、問題は……」」

 スッ。

「キー? ナー?」


 キーとナーは神妙な顔であかりの腹部に手を当てて、しばらくすると、安堵のため息を漏らした。


「よ、よかった……!」

「お三方共ご無事のようじゃの……!」


「?? お三方って……?」


 キョトンとする俺に、二人は言いにくそうな顔で事実を告げた。



「「お腹にいるお子じゃ……! 生き神様は、お前との間に次代の生き神様に当たるを身籠っておいでじゃったのじゃ……」」



*あとがき*


 読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

 m(_ _)m


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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