第9話「一夜のハジマリ」

「もう暗くなっちゃったね」

「最終電車はある。あー、でも、着くの日付跨いじゃうなあ」

「帰りたくない」

「それは私も同じだけど…消くん、まだ未成年じゃない」


僕が好きだと言った今日、綾さんは受け入れてくれた。

それがとても嬉しい。

けれど、まだちゃんとした告白をしていないことが気がかり。


「綾さん」

「ん?」

「告白、聞いてくれない?」

「告白ならもう受けたよ?」

「違う。そういうことじゃなくて、ちゃんと言いたい」

「消くんって真面目だね。良いよ、聞く。」


綾さんは笑顔で頷いてくれた。

もう緊張はしていない。

恋愛をしてこなかったからだろうか。

微かに手が震えている。


「綾さん」

「はい」

「好きです。僕と付き合ってください」


頭を下げて右手を差し出す。

この行動だけでどれくらいの力を要するのだろう。

あとは綾さんの返事待ち。

ただそれだけ。


「はい、よろしくお願いします」

「良かった。初めての彼女だ」

「消くんの初めて貰っちゃった」


彼女が嬉しそうに笑っている。

恋しい。

愛しい。

心の底からの喜びとはこういうことなのだろう。

初めての好きも初めての告白も全部が嬉しい。


『~♪』


僕のスマホが鳴った。

優子さんだった。

本当は出たくないけれど、仕事だから仕方がない。

綾さんは「出て良いよ」と言ってくれている。

だから出ることにした。


「もしもし。取材終わった?今からこっち戻って来れる?終電あるよね?」

「…今日は、戻らないことにしました」

「え?何言ってんの?今、綾と一緒なんだよね?」

「今、僕の彼女と一緒に居るんです」

「消くん…!落ち着いて!?綾は人妻、消くんは18歳の未成年なんだよ!?」

「知ってます!知ってるけど…もう…戻れない…。」


電話を切ると綾さんは心配そうに僕を見ている。

僕は彼女の手をそっと握った。

そして、ビジネスホテルへと入った。

入ってみるとダブルベットの部屋だった。

僕の胸は張り裂けそうになっている。

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