第7話「誘惑」

「金田さん」

「ん?どうかしたの?」

「綾さん、大丈夫ですか?」


会社の同僚の結花ちゃんが俺に話かけてきた。

結花ちゃんは俺と綾を結んでくれたキューピットだったりする。

そんな結花ちゃんが心配してきたのは何故だろう。


「どうかしたの?」

「私、見ちゃったんですよねえ。綾さんが男の人と会ってるとこ」

「仕事関係の人から友達になったって聞いてるけど?そんなに心配することじゃないよ」

「でも…」

「何?妬いてんの?んな訳ないか」

「…分かってるくせに」

「結花ちゃん…」


実は綾に内緒にしていることがある。

結花ちゃんと俺は俺が綾と結婚する前に付き合っていた。


「ねぇ、康太。私たちもう一度…」

「俺はもう綾だけにしたんだ。分かってくれよ。な?」

「意地悪」

「ならどうして綾のこと紹介したんだよ?」

「まさか結婚するとは思ってなかったなぁ」

「それは言い訳にならない」


俺は自然と結花ちゃんの頭を撫でていた。

結花ちゃんは俺に甘えてきた。

俺にも少し下心があるのかもしれない。


「綾さん、絶対に浮気してると思うけど?」

「綾に限ってそんなことしないよ。俺もするつもりないし」

「保障は出来ないと思うけど」

「俺は綾を信じてるから」

「ねぇ」


結花ちゃんは俺にキスをしてきた。

あの時の懐かしさには変わらない。


「…罪、犯そうよ。悪くないでしょ?」

「…悪くない」


ごめん、綾。

俺、もう引き返せないかもしれない。

誘惑に勝てなかった。

許してくれ。

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