第5話「あくまでも」

プルルルル


電話の呼び出し音が鳴る。

私はなんだか眠れなくて消くんに電話をかけた。


「もしもし」


彼の声に私は心からの安心感が生まれた。

出てくれたことも嬉しい。


「私、綾です」

「知ってるよ。ちゃんと登録してあります」


消くんはおかしそうにそう言っている。

「消くんに会いたい」と思った。


「それは良かった。あ、もしかして寝てた?」

「ううん、まだ。仕事してた。どうしたの?」

「なんかね、消くんのこと思い出しちゃって…かけちゃった」

「…旦那さんは大丈夫なの?」

「うん、寝てる」

「…そっか」


消くんの声が少し沈んだような気がした。

どうしたんだろう。


「どうしたの?」

「何が?」

「声、変わったから」

「どうもしてないよ」

「ねぇ、消くん」

「…会いたい」

「僕に?会いたい?」

「うん…」


消くんはため息を吐いた。

そして、「あのね、綾さん」と続けてきた。

私は急に不安になった。

消くんはさらに続ける。


「綾さん、勘違いしてる」

「勘違い…?」

「うん」

「どういうこと…?」

「たしかに僕も綾さんのことをもっと知りたいし、好きだよ?けど、それは恋愛感情ではいけないと思うんだ。あくまでも友達以上恋人未満の関係でないといけないと思う。綾さん、結婚してるわけだし」


たしかにそうだ。

私は既婚者で消くんは独身だ。

このまま一線を越えることは「不倫」に値する。


「…それでも消くんのことが好きって言ったら?」

「それはまだ早いと思う」

「まだ?」

「…うん。たしかに僕は綾さんのことが好き。多分、恋愛感情なんだと思う」

「うん…」


消くんも同じ気持ちだったんだ。

けど、「友達以上恋人未満」の関係が一番良いだなんて私は思わない。

そう思っている私に消くんはこう言った。


「綾さんのことを確かに恋愛感情の好きだって思ったら…」

「思ったら?」

「その時は僕に言わせてください」

「…はい」


涙が止まらなかった。

私、消くんのことが好きだ。

もちろん、恋愛感情。

この気持ちは摘む手を持っている果実のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プロローグ 花福秋 @hanafukuaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ