第3話「カムアウト」
「こんにちは、金田さん」
秋本さんの表情は何処か物憂げだった。
何かあったのかな?
「あの、秋本さん」
「はい」
「何かありました?」
「えっ…」
秋本さんは驚いたような表情を浮かべている。
やっぱり何かあったようだ。
秋本さんの気が楽になるなら聞いてあげたい。
そう思った。
「私に、言えます…?」
「えっ…?」
「私で良ければ聞こうかなって」
「ありがとう、ございます…」
秋本さんの表情が少し緩くなった気がした。
気のせいだろうか。
「今、時間あったらお茶でもしませんか?話が聞きたいです」
「お願いします!」
秋本さんが勢い良くお辞儀をすると背負っていたリュックから物が飛び出した。
秋本さんは「あはっ、またやってしまった」と笑いながら落としたものを詰め込んでいる。
そういう所が天然だな、可愛いなと思った。
多分、お姉ちゃんが弟に向けるような感情なんだと思うけど。
「私も手伝います」
「あ、ありがとうございます」
私が財布を手に取り入れようとした時、紙が1枚財布から飛び出た。
診察券みたい。
『野田ジェンダークリニック』と書いてある。
「秋本さん…」
「お話させてください!」
「は、はいっ!」
お互いに声が大きくなっていた。
そして、ふたりで笑い合っている。
この時が楽しい。
そう感じた。
「喫茶店、行きましょうか」
「はい」
ふたりで歩いていると手が触れ合った。
秋本さんは咄嗟に「ごめんなさい」と呟いた。
私も「いいえ、全然」と曖昧な返事をした。
中学生のような大人になりきれない恋ってこんな感じなのかな。
「金田さん、話しても良いですか?」
喫茶店に着き、席に着くと秋本さんが口を開いた。
「はい。お願いします」
ふたりの間に緊張の糸が張り詰める。
期待と不安を持ち合わせながら。
「金田さんが見た診察券。あの、ほら、『野田ジェンダークリニック』って書いてあった」
「あぁ、はい。たしかに見ました」
「僕、あそこのクリニックに通ってるんです」
「何か…問題でも…?」
私は急に不安になった。
何故かは分からない。
だけど、凄く不安で仕方がなかった。
秋本さんの手はガタガタと震えている。
「実は…僕…まだ女なんです…」
「あ、なんだ、そんなことか。…え!?秋本さん、女の人なんですか!?」
「最後まで話を聞いてください」
「はい、すみません」
「僕、実は今、男として生きる為にあのクリニックに通ってるんです。半年前にやっと診断が下りていよいよ治療するかって時に金田さんに会って金田さんにならカムアウトしたいなって思ったんです」
「そうだったんですか…」
私は何故かとても嬉しかった。
とても安心もしている。
彼、秋本さんはそれを見抜いたのか私に「大丈夫みたいで良かった」と笑いかけてくれた。
「秋本さん」
「はい?」
「私、秋本さんのことが知りたいです」
「僕のこと?別に知ったところで何も出ませんけどそれで良ければ」
「それが良いの。消くんのこともっと知りたい」
「うん、良いよ。綾さんがそう言うなら」
私たちは「友達以上恋人未満」の関係になった。
その一線を越えるとは知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます