第31話 異能力
―――こいつ人の話聞いてたか?
俺は大慌てで否定を入れる。
「違う違う。篠崎さんはちょっとした相談に乗ってただけだ」
「嘘や、篠崎さんはそんな可哀そうな奴じゃない! 那覇士のこともいじめてたみたいやし、、、」
「いじめてたんじゃねえ! 素で話したら那覇士のデリケートな話題に突っ込んだだけだ」
「どうして西岡がそんな事情をー」
「俺もその場に居合わせたからだよ!!」
拍子抜けするナガッチをスルーし、俺はただ述べる。
「那覇士から聞き出したのか知らないけど、あそこには俺や雲斎が居たんだよ。そこでひと悶着あって明日はちゃんと謝ろうって話だったのにごちゃごちゃさせやがって」
「………はは、うやむやにされたって……そういう」
「ああ面倒くさい! つうか何でお前篠崎さんを嫌う? 意味がわからん」
篠崎さんとの仲を知ってるのは雲斎だけのはず。それなのにナガッチが情報を持っているなど冷静に考えて非現実的。
けれども、攻撃的になる俺の言動は彼女に捉えられていなかった。不自然なまでにぶつぶつと何かを呟くナガッチは次の瞬間、異常な容態で長らく俯かせてた頭を振りかぶる。
「ハハハ!」
休み時間にあげる笑い声とは明らかに違う甲高い声量で彼女は笑う。伸びた前髪の隙間から初めて見えた赤く充血した瞳は、気のきつい目つきと作用して魔女のように深紅色に輝いていた。
「そうかそうか。あーしの願いは聞いてくれへんのか。何が原因にしろ、そいつは残念やな」
「何を言って!」
「ええわええわ、西岡。内緒にしてたんやけど、お前には教えたる」
「前も言ったけど俺は秘密なんでどうでも、」
「実を言えば、生徒がおかしなっとるのはあーしのせいなんや」
衝撃の告白に度肝を抜かれる。少時絶句して声を失う俺に、ナガッチはどこ吹く風で吐露する。
「なんかあーしって今まで殆どの友達に好意的だったんけど、それって魔法ミラクルパワーが働いてた結果らしいんや」
―――魔法ミラクルパワー? 何言ってんだこいつ。
「ハハ、信じてないって顔やなあ。それもそう。あーしも言われるまで気づかなかったんやし。でもこの力で合点がいった。それが昨日の放課後のこと」
「……」
日本語が通じない外国人を見る目でナガッチを拝見する俺。彼女はそれを念頭に置いてなお、こっちに微笑む。
「原理原則は大切じゃない。肝心なのはあーしの力、それを西岡は弾いた。それってあーしのミラクルパワーが効いてないってことやん。普段ならともかく、これだけ強い力を発生させててそれは可笑しい。だったら大方、トリガーは篠崎さんで決まり」
「………トリガー、能力、何を言ってるかさっぱりだ! 何の話をしてるんだよ!」
「本当に分からないって表情やなあ。けどそれも一興」
ナガッチがそう言った刹那、食堂に居る生徒が全員揃って動きを止めた。
「⁉︎」
「驚いた? 学校中の生徒はあーしの管理下にある。あーしの目的に従って彼らは動いてるんや」
ストップ、駆け足、滑り込み、とナガッチの命令に順応するかの如く生徒は全く同じ動きを表す。
―――嘘だろ、なんでコイツに、、
操り人形みたくそっくりに動作する生徒に恐怖を覚えながらも、血眼になって抑える。
「……お前の目的はなんだ?」
「それが理解出来れば目的達成なんやけど。端的に示すなら西岡、暫くあーしと一緒に居てくれんか?」
止まる生徒たちの渦の中心地に立つナガッチは、俺が損害しか被らなそうな提案を申し出る。
もしここで受け入れれば、幾ばくもなく不可思議な現況を変革してくれるのだろうか。
―――冗談じゃない。寒気は止まらないし、脳裏で引き受けるな、と誰かが囁いている。早くこの場を去った方がいい。
「ナガッチ。それは……できない」
「そうだと思ったわ。ま、微々たる可能性やったしいいか。んじゃ、西岡。悪いんやけど、」
動かないでくれ。
声はない。口の仕草で何を言ったか察知した。 言葉が合図なのか、寸刻の間に周囲が一変する。
「「「あああああー‼」」」
何人かの生徒が雄たけびを上げた。その状況に俺は怯え去る。
「何をした……」
「新しい命令。『西岡樹を捕まえろ』って」
ニタっと笑顔を誑し込むナガッチ。苦手だったがこんなイカれた女ではなかった筈だ。何から何まで気持ち悪い光景に図らずも怯えてしまう。
―――なんだよこれ……、、何が、起きて……
「ぎゃああ‼!」
「ひぃ⁉︎」
―――ダメだこりゃ、絶対死ぬ。無理無理、なにっが捕まえろだよ! 殺す気満々じゃねえか‼
奇声を発しながら飛び出してくる生徒。
「もうだめだ」と内心諦めたその時、映画でよく聞く効果音が真横から聞こえてきた。
ズトン!
音に紛れる拳銃の音。ラノベで得た知識であればそれは確実に銃だった。
「お主、無事か」
「! 昨日の爺さん!」
突如現れたのは、屋上で会ったとんがり帽子の爺さん。篠崎さんの場合といい、前触れもなく姿を見せるのがこの人のスタンスなのか。
何にせよ、どこか変わった雰囲気を醸し出す爺さんが変質者から救世主に思えるのは絶対だった。唐突に顕著した爺さんをナガッチは凄い形相で睨みつける。
「お前、誰や」
「通りすがりの老人じゃよ」
「嘘つくな! 通りすがりの人間が拳銃持ってるないやろうが、しばくぞジジイ‼」
凄い勢いで爺さんに噛みつくナガッチは自分の近くにいた生徒二人をけしかける。
「しゃああ‼」
人間の超脚力とは桁外れな高さをジャンプした生徒達はそのまま爺さんに迫る。が、、
「ほれ」
ズドドン!
連続で打ち抜く音を響かせると、あっという間に二人は撃沈していった。手持ちの小型拳銃は思いのほか威力がある。
「んー無駄じゃぞ。この銃は連続撃ち対応じゃ」
「くっ!」
ぐっと上唇を噛みしめナガッチは悔しそうな素振りをし、その容貌に胸懐で安らぎを得る。
爺さんがポッと失言を漏らさなければ。
「あ、弾きれた」
「そういうのは口に出すな!」
「元々麻酔銃だから弾数が少ないんじゃよ。許せ」
「助けに来た張本人が助ける手段をなくしてどうする⁉︎」
右往左往する俺たちに今度は逃がさないとナガッチの周りに数十人ほどの生徒が寄ってくる。まさに万事休す。不幸のどん底に叩き落された俺は、四つん這いになって顔面蒼白だ。
そんな有様を片目に映した爺さんは決して慌てずに大きく息を吐いた。
「安心せい、策ならある。この場を逃げ出すとっておきのやつがな」
「ほぉ、ぜひ教えてほしいわ。この外囲から逃げ出す方法とやらを」
ゆっくりと生徒を使って取り囲んでいくナガッチ。爺さんはそれを捉えながら体を崩す俺に手をやる。そして、慧眼な眼光で彼女を推し量った。
「自分が特別な存在だと自負した者は、その類まれない能力と裏腹に他人を見下す傾向にあるらしいのじゃが、どうやら事実だったらしいのぉ」
「……?」
爺さんが喋る内容に疑念を抱く彼女は首をひねる。「分からんのなら結構」、そう言って爺さんは両目をガっと開いた。
「必要以上の力を酷使続けると、後悔するぞ」
捨てゼリフと共に、俺は七色の光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます