第27話 余裕の相手
打ち合い。手足に防具を付けて、習った動作、受け、なんかを対人で使う、技の応酬戦。
後輩を相手にするときの先輩はもうほとんどサンドバッグ役で、打ち合い、をできる相手は、俺には飛騨しかいないことになる。
ピピピ、ピピピ——
三分のタイマーが鳴って、飛騨がそれを止めに行く。
打ち合いを止めて、各々の始まりの位置へと戻る。相手をしていた二人がお互いを向き合って、「あっした!」と礼。
長田は三分間の攻撃が終わり、息を弾ませている。サンドバッグだった俺は平生の呼吸でニヤリ、として見せる。「強くなったな」なんて含意で。長田は顔の汗を袖口で拭き取りながら、「あざっす」みたいな感じで軽く頭を下げる。
回って、次の相手と組む。打ち合いとはこれの繰り返し。顔と金的を狙わない、防具を装着した高次元の喧嘩みたいなものだ。
次、は三隈か。
飛騨が「お互いに、礼」と号令。六人という人数上、飛騨がそうやって、号令とタイマーと打ち合いを同時にすることになる。
「始め!」
ピ、と飛騨はタイマーを押してそれを床に置いて、待っている藤沢との打ち合いを始める。
俺は、三隈の拳を身体に受けながら、余裕ある体裁で三隈のサンドバッグになる。
まだまだ一年生が俺に追いつくなんてことはない。俺と一年生との実力差は歴然。俺は中学からだから、四年の経験差というのはとても大きい。こうやってほら、よそ見している余裕もある。
俺は、飛騨と藤沢の打ち合いを見た。
飛騨の動きは、自分には真似できないような、武道における神秘というか、そういうのを孕んでいた。
……。
もちろん、俺も確実に成長しているはずなのだ。手を抜かずに、ずっと、やってきた。そう確信できる。俺は成長している。
でも、それはないだろう。
お前は不正をして、俺を追い越していくんだ。
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