第24話 圧巻の演舞

「H高校空手部による演舞です」

 鷹岡の司会で、俺たちは体育館の中央に並ぶ。飛騨と俺が前、一年生四人が後ろ。普段通りの位置だ。

 少しざわついたままの観客席に向かって、飛騨が型の名前を叫んだ。

 一瞬にしてそのざわつきはどこかへ綺麗に吹き飛ぶ。場の空気を俺たちが制圧する。ジャックでも起こしたようだった。

 よし。いつもの空気感。

 俺たちの演舞、いや、普段通りの稽古が、いつものように静かに始まる。

 吹奏楽部やダンス部が賑やかなパフォーマンスを見せた中で、俺たちのそれは終始静かだった。大きな体育館で、道着をバサバサと言わせながら、六人で揃えて鋭利な型をする。キメのところで出す、地響きを起こすほどの大きな、そして鋭い気合声。観客席に座っている生徒たちは、静かな動作と迫力ある気合声が支配するこの得体の知れない崇高な空気感に、完全に飲み込まれていた。それを冷やかす馬鹿どもなど、どう間違えても出現する気配ではなかった。

 やがて型が終わって静かに礼をすれば、まるでバレエの演技が終わった後のような静かな、整った拍手が観客席からパチパチパチパチと聞こえてきた。

 司会として前に立っている、スーツがそのガタイに妙に似合う鷹岡は、満足気に頷きながら、観客席と同じように拍手をしていた。

 まあ、こんなもんかな。

 やることはやった、という感想とともに、一切表情を変えないで俺たち六人は静かに退場する。扉を出て扉が閉まって、背中に聞こえてくる拍手が一段階くぐもったころに、飛騨が振り返る。

「ま、こんなもんだ」

 俺は「だな」と返した。後ろの一年生たちは、「やってやった」という満足気なテンションでいた。後輩として可愛い奴らだった。

 これで俺たちの部活は正式に認められる。誰も文句を言わなくなる、はず。俺たちのいまの型を見たあとに「やってて意味なくね?」なんて、言われるわけない。

 そう思ったのだ。

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