(三)-2

 巨勢は驚きのあまり「何だそこにいたのか」と思わず口にした。

「話があるの」

 静華はうつむきながらそう言い、ゆっくりと巨勢の方を向いた。

 そしてそっと手の平を上に向けたまま巨勢の方に突き出してきた。

 妻の手の平には一本の口紅が乗っていた。

 手を出したまま何も言わない妻に、「口紅がどうした」と言った。

「私ね、このブランドのリップは、持っていないのよ」

 静華はゆっくりとそう言った。そしてゆっくりと立ち上がった。

 妻は巨勢の顔をまっすぐ見つめていた。いや、見つめていたというよりも、にらんでいた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る