030 後日談

「あ、あ、あの……十神先輩」


「ああ、西園寺あずさか。こんな入り口で会うとは奇遇だな。その調子だと君は後遺症はなさそうだ」


「は、は、はい。私は……特に。えっと、他の方は……この病院にいるってき、き、聞いたんですけど」


「ああ……ちょうどこれから見舞いに行くんだ。一緒に来るかい?」


「は、は、はい。行きます……」


「よし。じゃあ、着いてきてくれ。ただ……」


「た、た、ただ……?」


「……みんな、ひどい有様だ」


 ●◯●◯●◯


「一番軽いのは会長だ。多分、今は生徒会室にこもって書類の整理でもしてるだろう。下らん処理を、延々とね」


「あの……」


「お前はどこまで知ってるんだ。舞園由梨花のあの騒動について」


「えっと……真宮寺先輩と舞園先輩が入院しているってことだけ……」


「詳細は……」


「えっと、会長が全部解決したってだけ……」


「解決……。解決か……」


「ひ、ひ、ひっかかることが?」


「これが解決って言えるのかな。結局、今回の騒動で勝ったのは会長だけだ。私利私欲を満たして完全勝利したのさ」


「私利私欲……?」


「着いたよ。まず、真宮寺莉愛の病室だ。運が良ければ話はできるだろう」


「運が良ければ……って」


「見れば分かるさ」


「ッ……」


「見ての通り、彼女は片足を失った。全身にガラス片による細かな傷……背中が一番ひどいね。あとは、肺腔内の破裂と肋骨の骨折、他に細かな骨折がいくつも。そのせいで、一日に数時間しか目を覚まさない。目が覚めても、ぼぅっとしている時間の方が多い」


「そん……な。あの、あの真宮寺先輩が」


「活発で、愉快な真宮寺莉愛が……ね」


「お、おお、起きてください! 真宮寺先輩!」


「馬鹿、やめろ。怪我人だ。変に揺り起こそうとするんじゃない!」


「で、でも……で、で、で、でもぉ……」


「混乱するのは分かる。落ち着け。病室を出るぞ」


 ●◯●◯●◯


「砂肝和一のことは知っているか」


「ええ。会って、やられました」


「そうか。嫌いか?」


「ほ、ほ、ほ、ほとんどし、知りませんから……。彼女持ちのリア充ってところは、き、き、気に入りません」


「お前らしい」


「でも、砂肝和一と一緒にいるときの舞園先輩は、とても楽しそうでした。いつもと違って、うきうきしていて。夏祭りで会った時も……」


「……夏祭りに、二人でいたのか」


「……? え、ええ……は、は、はい」


「…………」


「えっと、す、す、すす砂肝和一は……今」


「死んだ」


「あぁ……やっぱり」


「……舞園由梨花の病室だ」


「あ、あ、あ、あああれ? 大きな、ここって成金とか資産家のクソジジイがふんぞり返って眠ったりするお高めの病室じゃないですかぁ。どうして先輩がここに」


「会長の差し金さ。たっぷりリッチな療養生活を……と」


「?」


「開けるぞ」


 ●◯●◯●◯


 …………


「ねぇ。どこ」


「すなぎもはどこ」


「ねぇ、なんでいないの」


「あれ」


「わたしのめのまえで」


「そっか。すなぎもは」


「すなぎもは」


 ●◯●◯●◯


「ずっと、こんな調子なんだ。思考が子供みたいになって、口調もずっと幼くて……」


「ま、舞園先輩?」


「砂肝和一が死んでずっと、錯乱状態なんだ。体に異常はない。怪我はない。だがずっと、心だけが。心だけが治らない」


「じゃ、じゃあ……」


「多分、もう治ることはない。だからこそ、会長の勝ちなんだ」


「か、か、会長は一体」


「アイツは、自分の裏をかいた砂肝和一と自分から逃げた舞園由梨花が許せなかった。それだけなんだ。幼稚だよ。アイツはずっと、成長しない子供なんだ」


「……先輩。舞園先輩の手に握られてるのって……」


「ああ。小さなストラップだ。四六時中、ずっと触ってるんだ。砂肝和一の名を呼びながら、可愛くもないうさぎをな」


「……あれ、夏祭りの射的屋で見ました」


「ああ……そうか……」


「……えっと……」


「それならば……手放したくないはずだ」

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