029 すなぎも

 ナイフが一本あった。


 会長はそのナイフをすなぎもの体に差し込んで器用に切り刻んでいく。ある程度小さなサイズに切ると、それをフォークで指して口に運ぶ。


 ぱくりと一口食べては、美味しそうに表情を緩める。


 すなぎもは叫ばない。

 痛いとも言わない。

 ただ黙って食べられていくだけ。


 腕を切られて、足を切られて。


 最初は蠢いていたのに。


 だんだん静かになる。


 動きが小さくなる。


 指が動きづらく。


 やがて止まる。


 血が出る。


 静止。


 会長の咀嚼音はずっと聞こえる。


 ぺちゃぺちゃ唇を血にぬらして。

 

 すなぎも。


 どうして動かなくなるの、すなぎも。


 しんじゃだめだよ。


 それじゃあ、なんのために。


 なんのためにわたしは。


「舞薗ちゃん」


 会長がわたしを呼ぶ。


「砂肝クン、だいぶ痛い思いをして死んじゃったね」


 死んだ。


 すなぎもが死んだ。


「君が人間狩りから逃がそうってするから」


 にがそうとするから。


「もし人間狩りが滞りなく進んでたら、こうはならなかった。彼はここまで苦しい思いをしなくて済んだんだ」


 くるしまなくてよかった。


「一瞬の痛みで済んだんだ。こんな、長引く痛みなんて感じずに」


 すなぎもは、いまより、よかった。


 いまほどくるしまなくてすんだの。


「誰のせいだと思う」


 だれ


「誰のせいで砂肝クンは死んだんだと思う?」


 だれ


 だれのせいで

 すなぎもくんは

 しんだとおもう


 それは


 それは


「わたしが、にがそうと、したから」


 かいちょうはわらった。


「よくできました」

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