第六章 チミドロ
025 車中にて
「さぁ! 飛びやがれ豪天号!」
「車に変な名称つけないでくれよ、真宮寺さん」
車のアクセルを踏み、すなぎもが発進させる。
わたしとりあは後部座席に座っていた。ぐだりともたれて、体の力は入らない。
「ってか、真宮寺さんは俺たちについてきていいんすか」
「逆に聞くが、アタイがついてこないでどう逃げるつもりなんだよ」
「……まぁ、どうにか騙し騙し……」
「だぁめだねぇ。相手はあのカイチョ―と生徒会だよ」
ぶんぶん手を振って、すなぎもの意見を否定する。
「甘いよ甘い!」
そう言って体を前方に乗り出す。すなぎもがびくっと驚き、車体が少し揺れる。
「この真宮寺莉愛様が手を貸してやるぜ! 目には目を、歯には歯を。能力者には能力者を!」
がははっと大きく笑い、コートの袖をまくり上げる。
腕をぶんぶん回す。
「会長ってそんなに強いんすか」
「ああ。なんならここに来る前に一回やられてきた」
「えええええええ‼」
車体がぐるんと揺れる。
「ちょ、ちょっと! 動揺すんじゃねぇ! ユリカがいんだぞ⁉」
「わ、わわわわわ分かってます。落ち、落ち、落ち、落ち着きますすすすうすす」
「バグってるんじゃねぇ!」
二人がさわがしい。なんだか楽しそうだった。
「で、だ」
りあが急に真面目な顔をする。カーミラーでちらりと見る限り、それはすなぎもも。
すなぎもも同じように真面目な顔をしていた。
「カイチョ―の能力だ。あれは人を操る。ただ、それだけじゃねぇ気がするんだ。あれは能力の一端でしかねぇ。いわば、氷山の一角」
「もっと別に、能力があると」
「ああ。あれはあくまで一部能力でしかねぇ。ただ……」
りあは笑う。
「奴の能力が戦闘系じゃねぇのはマシだ。ケンジの戦闘電脳みたいなのじゃねぇだけ、勝ち目はある」
ほんの少しの希望。
わたしたちに残された道の希望……。
ふらふらとする意識の中、耳にはっきりと響く音があった。
それは声。
大きな、声。
「来やがったみたいだぜ、親玉が」
りあがそう言って、振り返る。
わたしは、カーミラーに写る、後続車を見た。
それは赤いオープンカー。
泥を撥ねて薄く汚れた車。
そこに座る、男。
「迎えに来たよ、僕の女神」
生徒会長に違いなかった。
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