019 シスコンはストーカーを真面目に憂う

「砂肝和一。君はどこまで逃げる気だ」


「どこまでも。俺は由梨花さんと一緒に、必要ならどこまででも逃げる気はあります」


「覚悟は結構。俺だって妹の為ならそのくらいする。やはり見どころのある男だな」


「えっ、そ、そうっすか」


「急に照れるな。ふふふっ……。しかし、油断はするな」


「……もちろん。今俺たちがうまくやれてるのは、幸運っていう要素も絡んでると思ってますから」


「確かにそうだ。多分に幸運と、相手の油断がある」


「だとしても」


「ああ」


「だとしても、これからも負ける気はないっす」


「それは、お前の為か」


「え……?」


「それはお前が死にたくないからか」


「違います」


「だろうな。お前は舞園由梨花にぞっこんすぎる」


「大好きっすから。あ、俺のコレクション見ますか? 由梨花さん写真集」


「見らん、見らん」


「よく撮れてるのに……」


「俺はお前に逃げてほしいが、未だお前たちの側には死神の影が見える。完全なる勝利などあるはずはないが、お前たちの勝利はそういうものじゃない。あまりにも弱々しい土台の上に奇跡的に成り立っている」


「……それは、忠告っすか」


「予言だ。きっと舞園由梨花もお前と同じく、自分の為でなくお前のために戦っている」


「……はい」


「そいつは能力を酷使する。このままでは、彼女は力尽きてしまうだろう」


「……能力って言うのはそんなに体を酷使するんですか」


「舞園の能力は人に暗示をかける類だ。それに精神力を疲労しないわけがない。今の眠りも、能力使用後に派手に運動をしたせいで、変に疲れがたまっているからだ」


「……それで」


「さっきの戦いで舞園由梨花のことが少しわかった。そいつは、本当は馬鹿だ。どうしようもない馬鹿なんだ」


「そんなに言いますか」


「だからこそ。お前が大切にしてやってくれ」


「……」


「大事な後輩だ。これからはこうやって表立って味方してやることはできん。今は会長の目をかいくぐりどうにかここに来たが、これ以上は無理だ」


「……」


「お前が、守ってやってくれ」


「……言われなくても。守り切ります。俺は絶対に由梨花さんを死なせたりなんてしません。俺が、救います」


「……馬鹿なことを考えすぎるなよ、砂肝和一」

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