018 一人だけじゃない

「ありがとう」


 妹の写真に頬をこすりつけながら、とがみ先輩は嬉しそうに言った。


「……ミニスカサンタがお好き?」


「それは勿論。だが、そっちじゃない」


 それは勿論なのか。

 ……ミニスカサンタそんなにかわいい……?


「お前は見事、俺に自分の意志を伝えた。逃げたいんだな。それほど強く砂肝和一と共に生きたいんだな」


 こくりと頷く。彼を生かす気持ちに嘘はない。


「友達だから。死なせたくない」


「知ってるさ。お前の気持ちは今の戦いで嫌というほどわかった。今のお前の思考は何となく読める。戦闘電脳を舐めるな」


 彼は、わたしの知らないところまで知っているような感じがした。わたしの気付いていないところまで読み切った上で、知らないふりをしているみたいに。


「だが、忘れるな」


 忠告。


「その気持ちはお前だけが持っているわけじゃない。お前の行く道は決して確かなものではなく、不確定で曖昧なものなんだ」


 耳に入るその言葉の意味は読めない。

 注意しろと言っているのか。

 なんにせよ、疲れた。

 息を整えながら、わたしはふぅっと腰を下ろす。

 床にペタリと。


「少し休むと良い。体力は有限ではない。なんにしても、無限というのは錯覚に過ぎないのだからな」


 先輩は言う。お言葉に甘えよう。

 なんだか、とてもつかれたから。


 しばらく休み、車へと戻る。すなぎもはボロボロのわたしを、泣きそうな顔をしながら見る。貴方がそんな顔をする必要はない。


「だいじょうぶ」


 安心させるように、ゆっくりという。


「で、でも血が」


 彼がわたしの顔を指す。ちょっと頬を触ってみると、べったりと血がついていた。落下した時に打ったのかもしれない。


「大したことない」


「い、いえいえ! 由梨花さんが大したことないって言っても俺が気にします! えっと……」


 彼はどたばた動きながらポケットを確認する。自分の財布の中を確認したりして、ハンカチを取り出した。


「とりあえず血を拭って……包帯……」


「包帯をするほどの怪我じゃない。焦るな」


 助手席にどかっと腰かけたとがみ先輩が窓に肘をつきながら言う。冷静さを保て、という風に厳しい口調。


「車を出してくれ。流石に遠くまで送ることはできないが、人のそう多くない場所までは送れる。なんならここで別れてもいい。どこまで送ればいい」


「とりあえず、今下部組織がいない場所へ」


 すなぎもがわたしに目を向ける。


「由梨花さんも、少し疲れてるみたいっすし」


 そう……かな。


「急に、動いたからかも。ちょっと寝る」


 瞳を閉じる。

 もうちょっとだけ、体力を温存しなければ。

 そこでわたしの意識は闇の中に沈んだ。

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