第四章 VS戦闘電脳

015 戦闘電脳、滞りなく

「見つかってよかった。一時はどうなるかと思っていたんだ。舞園由梨花も共に逃げていたから、これは捕まえきれないんじゃないかと」


 笑いながらわたしたちを連れて行くその姿は、まさかこのあと殺人を行うとは周りの人間はだれも思わないだろう。


「砂肝和一、特に君には驚いた。いや、君なら何かやってくれるかもしれないという淡い期待はあった。だが、西園寺あずさを倒すとは想像してなかった。びっくりだ。感動だ」


 感心するようにそう語る。


「妹の婿にするならこういう『何をやらかすか読めない男』が良いとは思ってたんだ。だから割と君は優良物件だと思っていたんだが」


 そういってわたしの顔を覗く。ぽん、と肩も叩く。


「すでに先約がいたらしい」


 はっはっは。愉快な笑い声が聞こえるが、意図が読めない。褒めに褒めるがわたしたちを見逃がす気はなさそうだ。だからといってすぐに殺す様子もない。


「西園寺さんは今は」


「安心しろ砂肝和一。病院に運ばれた。大事をとって、というわけだからそんなに重い症状があるわけでもない。ただ、今回の人間狩りにはこれ以上参加はできんだろう。おめでとう、一人追手が減った」


 それは確かに、めでたくないといったら嘘になる。


「でもそれのどこにも先輩への得はない」


 真意が読めないのが一番怖い。


「どうしてそんなにうれしそうなの」


「どうして……どうしてって……」


 不思議そうにとがみ先輩は言う。


「気に入ってるやつが生き延びたらそりゃ嬉しいじゃないか」


 とがみ先輩が立ち止まる。

 そこに在ったのは一台の車。

 普通の車。


「さぁ、乗ってくれよ。これからステージ移動だ」




 わたしたちはとがみ先輩の言葉に従い車の中に乗り込んだ。とがみ先輩は助手席に座り、運転席には雇いの運転手。わたしたち二人は後部座席に座らされていた。


「安心してくれ。別に今すぐ血祭りにあげるなんてことはしない。まぁ、ゆっくりしていてくれ」


「どこにつれてくんですか」


「何、ちょっとしたゲームセンターだ。君に負担をかけはしないよ」


 すなぎもはその言葉に納得しかねつつ、じっととがみ先輩の後姿を見つめる。


「ははは。そんなに信用ないかい。まぁ、簡単なことだ。会長は別だが、俺は砂肝和一が逃げることを別に止める気はない」


 そこに嘘の気配はなかった。とがみ先輩は、本気でそう思っている。


「ただ、舞園由梨花。君は別だ」


 声色はかたい。


「君がこんな行為を起こすとは完全に予想外だった。お前の様子を見るに、これはお前自身の選択らしい。いや、あの舞園由梨花がそんな顔をするとはな」


 だが、その声色には喜びも垣間見える。


「だからこそ、君たちには証明してもらおう。いや、舞園由梨花……君には証明してもらう。逃げるという意思を。この俺に」


「どうやって」


「やることは変わらないよ。言ったろう? これから行く場所はゲームセンター……ステージ移動だって。俺と舞園由梨花でちょっと遊ぶだけだよ」


「なにで」


 車はまっすぐに向かっていく。その方向は、町はずれの廃墟になった研究施設群のある場所。とがみ先輩は少し黙って、宣言するように一言呟いた。


「殴り合いさ」

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