第27話 異変


 世界の中心に位置する絶海の孤島アルカディア。

 その島の北に位置する大陸に転移した俺は、アリスとノアと共にミカたちが用意してくれた馬車に乗って森の中を進んでいた。


「エルフと一口に言っても様々な種類が居るのです。例えばハイエルフ。創世神が創り出した原初種の一つでほぼ永遠に近い寿命を持っています。その性質を持つために繁殖に対して鈍感なこともあり、今では個体数をかなり減らしているようですが、まだまだご主人様のお役に立つ程度は残っているでしょう」

「ハイエルフに対してエルフと呼ばれる種は、原初種であるハイエルフから枝分かれして進化した種族。永遠ではないけれど長命なしゅでハイエルフよりも肉体のスペックは劣るけれど生命としてもっとも重要な力を持っている」

「重要な力?」

「好奇心。それは種が進化するためには絶対的に必要な心の動き。ハイエルフが永遠の寿命を生きる中で摩耗させてしまったもの」

「なるほど」


 あの山の向こうには何があるのか――。

 この料理はどんな味なのか――。

 この商品を買えば日々の生活にどう役立つのか――。

 まだ見ぬ未来の想像や渇望。

 それは好奇心が原動力となっている。

 仕事に追われていた頃の俺は好奇心が摩耗して、精神的にも肉体的にも生きたまま死んでいたように思う。

 生物が進化・発展するために好奇心が必要であるというルーの説明は、実感を伴ってすんなり納得できた。


「ハイエルフもエルフも人種よりも潜在魔力量が多く、魔法、特に精霊魔法に精通している特徴があります」

「ファンタジーに良くある設定そのまま、と思っておけば早い」

「なるほど。そう言われると分かりやすいな」

「今から向かう森『アルブランド』にはこの世界のハイエルフ唯一の集落がありますから、そこでアルカディアに移住するハイエルフを募りましょう」

「簡単に言っているけど、そんなことが可能なの?」

「ん? ノア、どういうこと?」

「……一度だけハイエルフと話したことがあるんだけど。傲慢で人を見下している印象を受けたから。いくらミカ様たちが居ると言っても、ハイエルフたちがあなたたちの言うことを聞くとは思えないのよね……」

「そうなの?」

「残念なことに創世神によって創られた種族がそういうおかしな矜持を持つようになっているのは否めませんね」

「原初種は総じて生物としてのスペックが高い。だから時間と共にその無駄にプライドが高くなっている」

「そっか。そんな人たちが俺たちのお願いを聞いてくれるかな……」

「ご安心くださいご主人様! もしもハイエルフたちがご主人様に失礼な口を利こうものなら、ミカがそのそびえたつプライドをペキッとへし折りますから!」

「それに主様は創世神の代行者。主様の力を見せればイチコロ。ハイエルフは強い者には従順なヘタレポンチだから」

「その通りです! それでもごちゃごちゃ言う者は、ミカの正義の剣ジャッジメントで素っ首跳ね飛ばしてご覧に入れますからね♪」

「ま、まぁできるだけ穏便に行こうな」


 俺のことが絡むとミカとルーの二人は途端に乱暴な発言が増える。

 それだけ俺のことを想ってくれているのが伝わってきて嬉しい反面、二人がどれだけ強かろうが危険なことはして欲しくないとも思う。

 できるだけ穏便に。

 できるだけ平和に。

 だけれども、自分と仲間の身に危険が降りかかったり人格を踏みにじられるようなことがあれば俺は全力で戦う覚悟はある。


(そんなことが無ければ良いんだけど)


 人種に対して傲慢で人種を見下しているとノアに言わしめたハイエルフという種族との邂逅に、少なからず緊張している俺の横でシロが唸り声を上げた。


「どうしたシロ?」

『うー! ご主人様、変な匂いがする! それに変な音が聞こえてきてるよ!』

「変な匂い? それに音ってどんな音だ?」

『何かが爆発するような音? それに精霊の声も聞こえる。誰かが精霊魔法をたくさん使ってるみたい』

「分かった。少し調べてみる。……『世界地図』起動」


 声に反応して空間に出現したARウィンドウが周辺マップを表示した。


「なんだこれ……」


 馬車が進んでいる道から少し離れた場所。

 森の奥にある大木の周囲に敵対を示す赤いマークが集中していた。


「誰かが何かに襲われてるってことか?」


 赤いマークに包囲されている白いマーク。

 その数、二十。

 その白いマークが一つまた一つ消滅していく様子が地図に表示されていた。


「ミカ! ルー! この先で誰かが何かに襲われてる! すぐに助けに行こう!」

「承知しましたご主人様!」

「ん。主様の望みのままに」


//不定期更新


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異世界を貰ったので『神』スキルを使ってヤリたいこと全部ヤる K.バッジョ @kbaggio

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