第17話 やりたいこと:アリスたちを助けたい
「はぁ、はぁ、はぁ……あはっ、体力には、自信が、あったんだけどなぁ……!」
「アリス、大丈夫っ!?」
「ちょっと足が震えてるけど大丈夫だよ。まだ頑張れる!」
「良かった。これからちょっと荒事が続きそうだけど、きっと貴女をあいつの下に連れていってあげるからね!」
「うん。二人で一緒に頑張ろうね、ノアちゃん!」
「ええ!」
街中を走るアリスたち。
だが追い縋る騎士たちの数は加速度的に増え、アリスたちを包囲するように距離を詰めてきていた。
やがて二人の視界が一気に開けた。
王都の中央に位置する噴水広場に到着したのだ。
この噴水広場を抜けて大通りを真っ直ぐに行けば城門に辿り着く。
その城門近くの宿屋がアリスたちの目的地だ。
ともすれば疲労で足がもつれそうになる中、アリスたちは必死に地面を蹴って目的地に向かって走る。
だが――。
「くっ……そう簡単にはいかないか……!」
噴水を中心に八方向に伸びた道から聞こえてくる足音。
それは後続の騎士たちが追いついた証左だ。
包囲するように現れた聖騎士たちの後ろから、一際豪奢な装飾を施した鎧を装備した壮年の男が姿を見せた。
「聖騎士団長。普段は教会の奥で偉そうにふんぞり返っているだけの貴方が陣頭指揮を執るなんて。明日は槍が降りそうね」
「ふんっ……貴様らがこそこそと逃げ回るから俺が出る他なくなったのだ。全く、さっさと観念すれば良いものを」
憎々しげにノアを睨み付けた聖騎士団長が手を振ると、アリスたちを包囲していた聖騎士たちが一斉に剣を抜き放った。
「この俺が陣頭指揮を執っているのだ。逃げることなど不可能と知れ平民!」
「はんっ、聖騎士団長の座を金で買った無能貴族が指揮を執っているからって、どうしてあたしたちが諦めなくちゃならないの」
「なにぃ? 平民如きが舐めた口を聞きやがって!」
「バカをバカと言って何が悪いのかしら? 身分を振りかざすことしかできない哀れな無能さん?」
「貴様ぁ! もう許さんぞ! おい貴様ら! この平民をさっさと殺せ! 偽聖女にも我らが聖剣をくれてやれ!」
「はっ!」
聖騎士団長の命令に反応し、アリスたちを包囲していた聖騎士たちが一斉に襲いかかってきた。
その様子を見て剣を抜き放ったノアは、アリスを庇うように前に出ると幼馴染みに援護を求めた。
「アリス、支援して!」
「うん! 女神の祝福をあなたに! 『
「ありがとう! これでしっかりアリスを護れるわ!」
「私も戦うよ、ノアちゃん!」
「百人力よ! 背中は任せるわね、アリス!」
「うん!」
迎撃態勢を整えた二人が聖騎士たちと接近戦を繰り広げる。
「この悪女どもが!」
悪態を吐きながら剣を振り下ろす聖騎士。
その手に握っているのはバスタードソードだ。
通常の剣よりも柄が長く、片手でも両手でも扱えるように拵えられた剣だ。
長剣よりも長く、重い。
この剣と
だがノアたちを包囲している聖騎士たちの多くは、剣は持っているものの盾は装備していない。
なぜなら聖騎士の象徴であるバスターソードと方形盾を同時に扱うには、かなりの筋力が必要になるからだ。
「はっ! 落ちこぼれ貴族のあんたたちは、相変わらず剣と盾を持てないようね! 訓練をサボっているからそうなるのよ!」
バスターソードを両手で構える聖騎士たちを嘲笑したノアが、片手持ちしたバスターソードで聖騎士たちを弾き飛ばしていく。
「くっ……! 平民上がりの女の分際で我らを愚弄するか!」
「愚弄? いいえ違うわ、
「同じことではないか!」
「あら。気が付いた? その程度のことも分からない頭のデキだと思っていたわ」
「平民風情が!」
「あんたらはいつもそう。階級しか誇れるものがないなんて格好悪くて笑い死にしそうだわ!」
ノアの挑発を受けて聖騎士たちがいきり立つ。
次々と襲いかかってくる聖騎士たちの剣を、時に片手で振り払い、時に盾で押し返し――ノアは聖騎士たちを一人一人、着実に無力化していく。
それはアリスも同様だった。
組み敷こうとする聖騎士たちの手を身軽に回避しながら、その肉体に『
『光弾』が命中した聖騎士はその衝撃によって後方へ吹き飛ばされていた。
「ええい、何をしておる、不甲斐ない!」
次々と各個撃破されていく聖騎士たちの姿に業を煮やした聖騎士団長が一歩前に進み出る。
「あんたたちと違って、あたしたちは日頃から兇獣を相手にしてるのよ! それに比べれば実戦経験のない腰抜け聖騎士なんてものの数ではないわ!」
「ふん、兇獣の相手なんぞ平民で充分ではないか。貴き血族である我ら貴族は獣の相手以上の役目を持っているのだ。それがこれよ」
ノアの挑発を鼻で笑った聖騎士団長が腰に吊り下げていた剣を抜き放った。
抜き放たれた剣から溢れ出した魔力の奔流が炎となって刀身を包み込んだ。
王都中央の噴水広場に居る者たちの影がより一層、濃い影となって揺らぐ。
「魔剣……っ!」
「そうだ。大司教より授けられた魔剣『バルトロメオ』。悪女を殺すにはもったいないほどの
魔剣とは魔力を帯びた武器だ。
帯びた魔力の質によって様々な能力を持つ。
ノアの知る魔剣『バルトロメロ』の能力は、刀身に炎を宿らせること。
そして聖人特攻だ。
「『創世教会』の教えに反した聖人を成敗する断罪武器を持ち出すなんて! それほどまでに聖女の存在が邪魔だっていうの、大司教は!」
「くっくっくっ、何を言っている? 我らには真なる聖女が居る。この魔剣は聖女を僭称した悪女を誅するために使うのだ! 何も間違ってはおるまい?」
「戯れ言を!」
ノアが憎々しげに吐き捨てた。
アリスのことを悪女であると決めつけながら、聖人特攻を備えた武器を持ちだしているのだ。
『創世教会』はアリスを聖女と認めながら、政治的な思惑を優先してアリスを切り捨てた証拠だ。
「力を持たぬ人々のために頑張ってきたアリスを、自分たちの権勢を得るために簡単に切り捨てるなんて! この外道どもがぁ!」
心の中を燃やす怒り。
その怒りの感情を剣に乗せて、ノアは騎士団長に斬りかかった。
ノアが持つバスターソードは聖水で清められた聖騎士の大剣だ。
特別な能力など持たず、斬れ味が少し良くなり、耐久度も多少上がっているだけの代物だった。
聖騎士団長が持つ魔剣に敵うはずはない。
だがノアの剣技は聖騎士団長を圧倒した。
「なにっ!?」
鋭い連撃を浴びせられた聖騎士団長がノアの勢いに圧倒されて驚愕を浮かべる。
「例え魔剣を携えていようとも、それだけであたしに勝てると思わないで!」
「平民の分際で生意気な! 両手両足を切り捨てて肉奴隷にしてくれるわ!」
ノアの連撃に圧倒されながらも聖騎士団長は反撃を繰り出してくる。
一撃、また一撃。
剣と剣がぶつかる度に火花が散っては夜闇に消える。
ノアは次々と繰り出して聖騎士団長を追い詰める。
(こいつさえ倒せば、あとは……っ!)
貴族子弟ばかりの軟弱聖騎士など物の数ではない。
指揮官さえ倒してしまえばあの男の下にアリスを届けられる。
(例えあたしの命が尽きようとも、アリスだけは必ず……っ!)
それがアリスの護衛騎士の自分の役目だ――ノアはその感情を剣に乗せて聖騎士団長を攻め続けた。
剣を振るい、盾を使って相手に圧力を掛けながら、少しずつ少しずつ優位を積み重ねていく。
このまま攻め続ければやがて聖騎士団長を打ちのめし、道が開けるはず――。
そんなノアの考えは、だが脆くも崩れ去った。
広場に響く硬質な音。
ノアの剣が折れた音が噴水広場に甲高く響く。
「しまった……っ!」
「くははははっ! ただの剣では魔剣の攻撃には耐えられなかったようだな!」
ノアの大剣が折れたことで聖騎士団長が勢いづく。
折れた大剣を茫然と見つめていたノアの隙を突いて身体をぶつけてきた。
咄嗟に盾を構えたノアだったが、体格差も相まって衝撃を受け止め損ね、大きく体勢を崩した。
「聖騎士としての実力が上なのを良いことに、散々、我ら貴族をバカにしてくれたな平民! その報い、受けるがいい!」
体勢を崩したノアの頭上に落ちる聖騎士団長の一撃。
盾を構え直す余裕もないノアにとって、その一撃は死を意味した。
「ノアちゃん!」
「アリス、ごめん……!」
背後から聞こえてくる愛しい幼馴染みの声。
ノアは最愛の少女に振り返りながら謝罪の言葉を口にした。
ずっと守りたかった。
ずっと一緒に居たかった。
頭上から振り下ろされる剣に死を覚悟したノアの頭の中によぎる、最愛の幼馴染みとの思い出の数々。
「ぐははははっ! 死ねぇ、平民がぁ!」
観念したような表情を浮かべるノアに、圧倒的優位を確信した聖騎士団長が哄笑しながら魔剣を振り下ろした。
炎を纏った魔剣がノアの頭部にめりこみ、髪を焦がす匂いが周囲に漂う。
――誰もがそう思った時。
声が聞こえた。
「諦めるのはまだ早いんじゃないか?」
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