第14話(後編) やりたいこと:冒険者ギルドに加盟したい
「おい、待てよ! てめぇみてえな貧弱野郎がギルドに加盟したら冒険者全員が舐められることになる。加盟なんてオレ様が認めねーよ!」
敵意剥き出しの罵倒を投げかけられ、俺はペンを置いて振り返った。
そこには身長二メートルはあろうかという大男が、俺を威嚇するように歯茎を剥き出しにして怒鳴っていた。
「ちょっとダンボさん! 期待の新人を威圧するのはやめてください!」
「うるせぇ、何が期待の新人だ! 女を侍らせて得意満面なツラしてる貧弱野郎なんざ、冒険者として役に立つはずねーだろ!」
「そういったことはギルドが判断します! それに加盟後にはランクを決めるテストも行うんです。冒険者であるダンボさんの出る幕じゃありませんよ!」
「まぁそういうなって。このオレ様がギルドの手間を省いてやるって言ってんだ。どうせランク決めのテストをするなら、オレ様が代わりにやってやるっていう優しい心遣いじゃねーか!」
ダンボと呼ばれた男と受付嬢のやりとりを眺めながら、揉め事に備えて腰を落として身構える。
(生まれてこのかた、殴り合いの喧嘩なんてやったことないんだよな俺。どうすりゃ良いのか……)
(心配する必要はありませんよ。この男は戦闘力5のゴミですから。ご主人様に敵うはずありません)
(戦闘力5って……)
国民的漫画の一シーンを思い出して思わず噴き出した。
「てめぇ! 何笑ってやがんだ!」
馬鹿にされていると思ったのか、俺の反応に大声を出して反応したダンボが丸太のように太い腕で殴りかかってきた。
「……っ!」
巨漢を揺すって突進してくるのと同時に俺に向かって右腕を振り下ろす。
ともすれば気圧されそうになるのを堪えながら、俺は振り下ろされる拳を振り払うために腕を振るった。
ダンボの拳と俺の腕が接触する。
その途端――。
「ぎゃあ!」
悲鳴を上げながらダンボの巨躯がギルドの入り口に向かって派手に吹っ飛んだ。
「う、腕が! 俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!」
俺に殴りかかった拳を抱えながらダンボが泣き叫ぶ。
目を凝らして見るとダンボの腕は大きく腫れ上がり、曲がってはいけない方向にぐにゃりと曲がってしまっていた。
どうやら関節からポッキリと折れてしまっているようだ。
「え? なに? どういうこと?
(主様の腕が当たって吹っ飛ばされた)
(触れただけで相手の腕を折るなんてさすがご主人様です!)
(お、俺ってそんなに強くなってんのっ!?)
(ん。主様は世界最強)
(
(自分自身を『鑑定』してみて)
(わ、分かった。『鑑定』)
ルーに促されるまま自分自身に向かって『鑑定』スキルを実行すると――。
【名前】:カミト・ジングウ
【種族】:代行者
【年齢】:二十歳
【LV】:2
【HP】:30/30
【MP】:∞
【PP】:20/20
【力】 :512
【魔】 :512
【耐】 :512
【速】 :512
【運】 :512
【能力】:『神』 精神耐性 物理耐性 状態異常無効
全属性適性 全属性耐性
【技能】:『神』 無限収納 鑑定 隠蔽 転移 探知 世界地図 解体 念話
火属性魔法 水属性魔法 土属性魔法 風属性魔法
光属性魔法 闇属性魔法 無属性魔法 神聖魔法
(うお……レベルが上がってステータスが倍になってる……)
(主様は代行者だからレベルが1つ上がるごとにステータスが256アップするようになってる)
(最高値が100のこの世界でステータスが500オーバーとか、さすがご主人様ですね♪)
(いやいやいやいや。フォースデン世界最強の人より五倍強いとか、正直に言って意味が分からんって!)
(意味なんて考えなくても良いと思う。強いのは良いこと)
(ルーの言う通りです! ご主人様の世界ではこんな言葉があるじゃないですか。強さがあればなんでもできる!)
(それを言うなら元気があれば、だけど。それにしても……とんでもなくチートな存在なんだな俺って……)
改めて自分が人外レベルの存在になっていることに苦笑が漏れた。
「てめぇ、また笑いやがったな!」
「ダンボの仇だ! 殺っちまえ!」
ダンボの仲間らしき冒険者たちが一斉に襲いかかってきた。
ステータスのことで衝撃を受けていた俺は虚を衝かれてしまい、反応が遅れた。
だが――。
「さきほどはご主人様の力を披露するために動きませんでしたが」
「主様に危害を加えるやつをみすみす見逃すルーたちじゃない」
「ワフッ!」
俺の背後から飛び出した二人と一匹が襲いかかってきたダンボの取り巻きたちと対峙する。
「ご主人様に無礼を働くやつはこのミカが許しませんよーっ!」
「しつけのなってない駄犬は調教する」
「ワウッ!」
スカートを翻して白い足を見せつけながら取り巻きAを蹴り飛ばすミカ。
チラッとガーターベルトを見せつけながら取り巻きBを壁に叩きつけるルー。
取り巻きCの足にかじりつくと、首を一振りして外にたたき出すシロ。
一呼吸する間に取り巻きたちを瞬殺したミカたちを見て、冒険者ギルドの中が沈黙に包まれた。
「あの、お騒がせしてすみません。加盟受付はまだやってもらえますか?」
時が止まったような沈黙が支配していたギルドの中に、俺の声だけがやたら大きく響き――茫然としていた受付嬢が我に返った。
「すごい! すごいすごいすごい! すごいですよこれは! ダンボさんたちはこのアイウェオ王都の冒険者ギルドで指折りの実力を持つパーティなんです。それを一瞬でぶちのめすなんて! これは期待のルーキー爆誕の予感! さぁ加盟を! すぐ加盟を! さっさと加盟を! 今、加盟して頂くと私の権限でランク試験無しにしちゃいますよ!」
「権限って。受付嬢さんにそんな権限があるんです?」
「ありますよぉ! こう見えて私、アイウェイ王都の冒険者ギルドのサブギルドマスターですから!」
「え」
この人、そんなに偉い人なのっ!?
「そんな偉い人がどうして受付を?」
「そりゃもう、実力のある新人さんに目を付ける……じゃなかった、勧誘するために決まってるじゃないですか!」
決まっていると言われても何がなんだか分からないが、ランク試験無しにしてくれるというのは有り難い。
「でも本当に良いんですか?」
「王都でも指折りのBランクパーティを叩きのめしたんですから、最低でもCランクの実力はあるってことですし。とは言ってもいきなりCランクにしちゃうと色々と問題が発生しますからDランクぐらいになっちゃいますけど」
「Dランク……ちなみにランクっていくつあるんです?」
「最低ランクはGですね。これは加盟した直後のランクです。そこから依頼を数回こなせFランクになれます。更に依頼をこなしてEランク。そこから実力を示した人たちがDランクに昇級するって感じです。Bランクパーティを叩きのめした貴方たちなら余裕でDランクの実力はあると思いますよ」
「なるほど。じゃあお言葉に甘えます」
「では加盟してくださるということで?」
「はい」
「ありがとございまーす♪」
満面の笑みを浮かべたサブギルドマスターは、記入済みの申請書をひったくると手早く事務処理を進め――あっという間にギルドカードができあがった。
「はい! こちらが皆さんのギルドカードになりますよ! このカードは全国共通の身分証として使える優れものです。紛失しないようにしてくださいね。再発行はお高いですよー?」
「どれぐらい掛かるんです?」
「なんと! 金貨一枚が必要です!」
「金貨一枚っ!?」
金貨一枚は日本円にして百万円だ。
そう考えるとめちゃくちゃ高い。
だが商業ギルドでもそうだったように、大切なものを紛失するというのは信用に関わる問題だ。
それを防ぐために高くしているのであれば金貨一枚は妥当な金額だろう。
「あとは、と。ギルドカードにはテイム済みの魔物についても記載されていますから安心してくださいね。それと……こちらをどうぞ!」
そういうとサブギルドマスターは首輪のようなものをカウンターに置いた。
「これは?」
「テイム済み魔物であることを証明する首輪です。テイムした魔物にはこの首輪を嵌める決まりですので、シルバーウルフちゃんに嵌めてあげてくださいね」
「首輪、ですか。他には無いんですか?」
「大型魔物の場合はアンクレット型なんかもありますけど、狼種の魔物は首輪が主流ですね」
「そうですか……」
『ご主人様、ボク、その首輪でいいよ!』
(良いのか?)
『うん!』
「……分かりました。じゃあこれで」
カウンターに置かれた首輪を受け取ってシロに装着する。
するとシロは嬉しそうに飛び跳ねながら俺にじゃれついてきた。
『これでボクはご主人様のものだ! やったー!』
「ははっ、これからよろしくな、シロ」
『うん!』
「これでシロちゃんはテイム済みの魔物として扱われますね。ちなみにテイム済み魔物が理由なく民間人に危害を加えた場合、処分するのが決まりになっていますから、しつけはしっかりとしてくださいね」
「了解しました」
「あと、何か説明することがあったかなー……えーっと……そうだ! ギルドカードの更新についても話しておかないとですね♪」
「更新、ですか?」
「そうです。依頼を達成したときにはギルドカードを提示してもらうんですが、その度に期限が更新されるんですよ。Gランクは十日、Fランクは一ヶ月。Eランクは二ヶ月。Dランクは半年ごとに一つ以上の依頼を達成するようにしてください」
「分かりました。けど更新頻度、意外と早いんですね」
「昔はそうでもなかったんですけどねー。登録したあと依頼を受けずに身分証として悪用する人が多くなっちゃって。問題になってしまったんですよ」
「なるほど。それでですか」
悪用する者が増えれば規則はどんどん厳しくなる。
それは当然のことだ。
どこにでもルールを悪用するやつが居ると思うと暗い気持ちになる。
「冒険者はいい加減な人が多くてイヤになっちゃいますよ。でもカミトさんは紳士的ですし、実力もあるし、いい冒険者さんです♪ どうです? アイウェオ王国冒険者ギルドのアイドル、このメジョお姉さんとお付き合いしてみませんか♪」
「あ、いえ、それはその……ははっ」
どう返せば良いのか分からず適当に笑って誤魔化していると、後ろから進み出てきたミカとルーが俺に腕を絡めてきた。
「ダーメーでーす! ご主人様にはミカたちが居るんですから!」
「主様と付き合いたいならルーたちを倒してからにして」
「むぅ……やっぱりメイドさんたちとデキていらっしゃいましたか。これだから男ってのは……」
ブツブツと文句を零していたメジョだったが、そこは歴戦のサブギルドマスターと言うべきか。
すぐに営業スマイルに切り替えると説明を締めくくった。
「とにかく。カミトさんほどの実力のある方が依頼を受けてくれるとギルドも助かりますので。頑張って冒険者ライフを満喫してくださいね♪」
こうして――俺はギルドカードと共にシロのテイム済み証明書もゲットした。
それから俺たちは宿屋を拠点として王都での買い物に勤しんだ。
調味料や食材、料理器具が生活用品などなど。
必要なものをどんどん購入して市場でちょっとした話題になった頃には、王都に来てから一週間が経過していた――。
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